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医薬ジャーナル 2003年10月号(Vol.39 No.10)

p39(2707)~p41(2709)


医薬ジャーナル論壇

沼田 稔(ぬまた・みのる)…本誌編集長


同系薬剤間の異なる作用・効果と臨床比較試験
−COMET報告の評価と課題−


Summary
 同系統の薬剤であっても,その効果や有害作用が必ずしも全て同じではないということは当然のことだが,しかし,薬剤によってはその辺りのことは大まかなままに,それぞれの薬剤の比較対照を,系統毎の括りで概念化するというやり方が一般的だ。例えば,循環器分野における利尿剤,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬といった場合だ。もとよりそうした系統毎の分類比較手法の必要性を否定するものではない。しかし,より厳密な統計手法によるエビデンスが求められる今日のEBM(根拠に基づく医療)の時代にあって,無作為対照比較試験の解析に当たっては,中分類的な系統別名の対比解釈による優劣論議だけでは,論じきれない問題を残すことにもなる。こうした中,最近のランセット誌でβ遮断薬どうし,カルベジロールと酒石酸メトプロロールの大規模比較試験(COMET)の結果が報告されており注目される。


 同系統の薬剤であっても,その効果や有害作用が必ずしも全て同じではないということは当然のことだが,薬剤によってはその辺りのことは大まかなままに,それぞれの薬剤の比較対照を,系統毎の括りで概念化するというやり方が一般的になっている。例えば,循環器分野における利尿剤,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,β遮断薬,カルシウム(Ca)拮抗薬といった場合だ。
 もとよりそうした系統毎の分類比較の手法については,それぞれ系統毎の特質を把握するためには有用だし,また問題整理の簡便性においても優れていることについては論を俟たない。しかし,より厳密な統計手法によるエビデンスが求められる今日のEBM(根拠に基づく医療)の時代にあって,無作為対照比較試験の解析に当たっては,中分類的な系統別名の対比解釈による優劣論議だけでは,論じきれない問題を残すことにもなる。
 古典的なサイアザイド系利尿剤が,二次エンドポイントでCa拮抗薬とACE阻害薬を凌ぐという最終結果が示された米国の大規模臨床試験ALLHAT(昨年12月発表)をめぐっては,異なる民族性も踏まえて,その臨床応用への妥当性をめぐっての論議がなされている。しかし,このような場合においても,その議論が系統別名の次元だけにとどまっていてよいのであろうかとの疑問も出てくるところだ。ALLHATでは,サイアザイド系利尿剤としてクロルタリドン(Ca拮抗薬はアムロジピン,ACE阻害薬はリシノプリル)が使用されている。これについて米国では,Journal Watch誌でAllan S Brettが,ALLHATにおけるクロルタリドンの結果を,広く他のサイアザイド系利尿剤に等しく適用できるものであるのかどうかとの疑問を提起しているということもある1)。(本誌2月号「論壇」参照)。
 またALLHATの問題とは別に本誌8月号でも,愛媛大第2内科教授の檜垣實男氏が,無作為対照比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)において検討された薬剤については,「クラス効果(Class effect)に対して節度ある態度が必要」と指摘,高血圧の場合,「例えばアンジオテンシン II 受容体拮抗薬(ARB)に関しては,すべて同クラスと考えられがちであるが,我々の薬理学的知識は限られている。一般に,RCTの効果は,そのRCTで用いられた薬剤のみの効果であるとして,他剤でも同様の効果を期待しないものである」と述べている2)

β遮断薬どうしの比較試験COMET
 一方,最近のランセット誌で,同じβ遮断薬であっても,カルベジロールと酒石酸メトプロロールとでは,カルベジロールのほうが心不全患者の死亡率において,有意に低い値を示したとする臨床試験結果の報告があり注目される3)。ロシュとグラクソ・スミスクラインが支援するCOMET(the Carvedilol Or Metoprolol European Trial)と呼ばれる大規模臨床試験によるものだ。
 COMETについては,後述のようにその結果を短絡的に臨床適用することが妥当かどうか,これまでに報告された他の大規模臨床試験の結果を総合すれば,逡巡するところも出てくるようだ。それらについては今後のさらなる検証が必要とされようが,ともあれ,今回のCOMETの試みについては,より厳密なエビデンスを求めるという意味で歓迎するものだ。今後こうした研究がさらなる広がりを見せることに期待したい。
 しかし,ここでひとつ大きく問題となってくることに,それらの大規模臨床試験については,海外では政府機関によるものもあるが,通常は製薬大企業をスポンサーとして行われることが多いということがある。つまり,好むと好まざるとに関わらず,そこには企業として好ましき“エビデンス”を求めるという経済原則が働くということだ。そこで仮に,巨額を投資した大規模試験において,その意図した結果が逆に出た場合はどうなるかということだ。そうした結果をそのまま発表するのかどうか,あるいは試験スケジュールの半ばにして,逆の結果の出ることが濃厚であることが判明したような場合に,果たしてそのまま予定どおりの作業が継続されるのかどうか問題を残すところだ。心しておかねばならないバイアスとして付記しておきたい。
 COMETは,カルベジロールと酒石酸メトプロロールの比較を目的とした無作為対照比較試験で,欧州15カ国341施設において,3,029人の慢性心不全患者(平均年齢62,平均拍出率0.26)を対象として行われた。対象患者には利尿剤とACE阻害薬による標準治療に加えて,カルベジロールとメトプロロールがそれぞれ投与された。カルベジロール投与群1,511人(25mg1日2回),メトプロロール投与群1,518人(50mg1日2回)で,観察期間は平均58カ月であった。
 その結果,全原因死亡率は,メトプロロール群の40%(1,518中600)に対してカルベジロール群は34%(1,511中512)で,有意の差を示した。複合エンドポイント(死亡率と全原因入院率)では,カルベジロール群74%(1,511中1,116),メトプロロール群76%(1,518中1,160)で,両者の有意差はなかった。副作用および脱落例においても差はなかった。こうした結果について研究グループでは,カルベジロールの使用は,メトプロロールに比較して,より生存期間の延長を示唆するものと結論づけている。
 さらに同研究グループでは,カルベジロールの結果が勝っていた理由として,カルベジロールには,β-1アドレナリン受容体に選択的に作用するメトプロロールやビソプロロールとは異なり,β-1とβ-2の両方の受容体に作用する働きのあることや,1)より大きな抗虚血性ECG(心電図)効果,2)アポトーシスの抑制,3)酸化防止,フリーラジカル除去,4)電気生理学的効果 ― などを推測している。

カルベジロールかメトプロロールか
他大規模臨床試験との比較で残る課題
 これに対して今回のCOMETについて論評している英国グラスゴー,ウエスターン・インファーマリーのHenry J Dargieは,COMETでのメトプロロールに対するカルベジロールの優位性は疑いもないが,それがβ-1をブロックすること以外の如何なる薬理学的効果によるものなのかということになれば,決定的と言えるものはないと述べている4)。さらにDargieは,これまでのプラセボ群と比較した3つの大規模臨床試験での死亡減少率が,メトプロロール群(MERIT-HF:34%)やビソプロロール群(CIBIS II :34%)およびカルベジロール群(COPERNICUS:35%)において,ほぼ同じ数値であったことを挙げるとともに,これらの大規模臨床試験結果に比較して,COMETにおける10%というメトプロロール群の年間死亡率に高すぎる印象のあることを指摘している。
 即ち,MERIT-HFにおけるメトプロロール群の年間死亡率は7.2%にとどまっており,CIBIS II におけるビソプロロール群の場合も8.8%となっている。一方,COMETにおけるカルベジロール群の年間死亡率は8.3%で,この数値はMERIT-HFとCIBIS II におけるメトプロロール群およびビソプロロール群の場合とほぼ同じであることを挙げている。一口にエビデンスとは言っても,それぞれの臨床試験にはそれぞれの条件と思わぬバイアスもあるわけで,改めてその多様性について考えさせられる。
 同系統の薬剤が全て同クラスではないということについては前出のとおりだが,ひとつひとつのその内容となれば,そう単純ではなさそうだ。COMETにおけるカルベジロールとメトプロロールの対比結果については,さらなる検証が必要であろう。




文献

1)Finally, the ALLHAT Results for Hypertension. Journal Watch(web). Jan. 14, 2003
2)檜垣實男:特集・日本人のための降圧療法 序.医薬ジャーナル,2003年8月号 p75-77
3)Philip A Poole-Wilson, et al.:Comparison of carvedilol and metoprolol on clinical outcomes in patients with chronic heart failure in the Carvedilol Or Metoprolol European Trial(COMET):randomised controlled trial. The Lancet, Vol.362, July 5, p7-13, 2003.
4)Henry J Dargie:βblockers in heart failure. The Lancet, Vol.362, July 5, p2-3, 2003.


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