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医薬ジャーナル 2010年5月号(Vol.46 No.5)

p39(1337)~p41(1339)


医薬ジャーナル 論壇

沼田 稔(ぬまた・みのる)…本誌論説主幹


DR研究(既存薬再開発)への期待と課題
― 米では“見捨てられた薬”の公式マッチングサイト ―


Summary
 昨今見られる新薬開発研究の行き詰まりを打開する方法として,ドラッグ・リ・プロファイリング(DR)なる新しい研究概念が議論の対象となっている。ヒトでの安全性と体内動態が実績によって既に確認されている既存薬から,新たな薬効を見つけ出し,実用化につなげていこうというものだ。3月岡山市での日本薬学会年会では,このDRについて,基礎と臨床両面からの議論が交わされた。DRの手法には,非臨床試験から始める新規開発よりも,遙かに有利な点が多い。その反面,DRといえども「多機能な薬効を示す医薬品は,目的とする効能以外ではむしろ副作用を示すことになる」といった「諸刃の剣」の側面もある。一方,数歩先んじている米国では,開発に失敗し製薬企業内で店晒しになっている“見捨てられた薬のリスト”を,webのポータルサイトに乗せることで,新たな薬物探索研究者と企業とのマッチングをはかる国家的プロジェクトもスタートしており興味深い。


 昨今見られる新薬開発研究の行き詰まりを打開する方法として,ドラッグ・リ・プロファイリング(DR:Drug Re-Profiling)なる新しい研究概念が議論の対象となっている。既存薬から新たな薬効を見つけ出し実用化につなげていこうというものだ。言わば,創薬のためのエネルギー節減にもなるという意味で,エコファーマとも呼ばれている。3月岡山市での日本薬学会第130年会では,シンポジウム「DRUG RE-PROFILING研究(エコファーマ),既存薬の新しい薬効の発見」で,このDRについて,基礎と臨床両面からの議論が交わされた。
 わが国のみならず,世界的にも新医薬品の発売数は減少しているが,その主な原因は,臨床試験における予想外の副作用の発生と,ヒトでの充分な体内動態が得られないことにある。「そこで考えられるのは,ヒトでの安全性と体内動態が臨床で充分に確認されている既存薬の作用を徹底的に調べ,それを活かしてその既存薬を他の疾患治療薬として開発する研究1)」が求められているというわけだ。
 シンポジウム(オーガナイザー:熊本大院医薬・水島 徹,九州大・井上和秀)では,「DR研究の現状と課題」(水島),「ATP受容体研究におけるエコファーマの実践」(井上)のほか,「基礎ならびに臨床知見に基づくパクリタキセル過敏症予防薬としてのペミロラストの有用性」(岐阜大病院薬・伊藤善規),「NMDA受容体拮抗薬の鎮痛補助薬および依存症治療薬としての有用性」(星薬大・鈴木 勉),「GIRKチャネル阻害作用をもつ鎮咳薬の難治性脳疾患モデルにおける多彩な薬理作用」(熊本大院医薬・高濱和夫)など,そして,ベンチャー企業の立場から「DRの実例と経験から得られた問題点」(ノーベルファーマ・塩村 仁),締めくくりとして行政の立場から「DR(既存薬の新しい薬効の発見)を考える」(厚労省医政局・井本昌克)などの報告と見解が示された。
 オーガナイザーの水島氏によれば,米国でのDRはドラッグ・リポジショニングという呼称で,既に市民権を獲得している存在で,実際,米国で昨年認可された医薬品の半分以上が,剤形変更を含むドラッグ・リポジショニングによるものであるという。専門ベンチャー企業が中心となって,“Drug Repositioning Summit”学会も設立されている。また,欧米のメガファーマでは,数百人以上の専門チームを組織しており,自社の薬の再利用を積極的に行っている。
 この分野で特に先行しているのは米国ファイザーで,同社の場合は後述するように,DRという既存薬の再利用をさらに超えたところでの,開発に失敗し店晒しになっている“見捨てられた薬のリスト”を,米国立衛生研究所(NIH)が支援するwebのポータルサイト(CTSAサイト)に乗せて,新たな薬物探索研究者とのマッチングをはかるビジネスを,積極推進しているといったことも伝えられており興味深い2)

既存薬再開発の利点と課題
 CTSAポータルサイトについては,ひとまず差し置くとして,日本薬学会のシンポでは,既存薬の再利用(DR)の利点について水島氏は,1)確実性:市販実績があることで,臨床レベルにおける安全性と体内動態(吸収性等)が,ヒトで確認されている,2)低コスト性:多くの既存のデータが使用できる,3)優位性:特許を既に取得していること,蓄積されたノウハウと材料(周辺化合物など)が存在すること ― などをあげている。
 一方,課題として残るものとしては,1)新たな特許戦略の確立,2)後発品による適応外使用対策,3)薬価対策(既存品の適応を基準とすることによる低薬価問題)― など,また,わが国におけるDR研究システムの構築に向けての課題としては,1)大学等の公的研究機関の参画,2)研究費問題,3)サイエンスとしての確立,4)薬学会,DDS学会との連携 ― などの命題をあげている。

DR研究にも欠かせぬ副作用への“目利き”
 ここでひとつ注意しておきたいことは,DRには効能面だけではなく,それによって新たな有害事象がもたらされる恐れもあるということだ。確かに既存薬,それも長年にわたって使用されているものであればあるほど副作用情報も豊富であり,安全性の確認が容易であることはそのとおりであろう。しかし,特に副作用の軽減を目的としたDR研究の場合は別としても,新たな疾患治療薬としての開発を標榜する以上,従来にはなかった副作用への警戒も欠かせない。このことについては水島氏自身も,フロアからの質問に答えて,「実際には副作用も出てくる。そこのところの“目利き”が非常に重要」と注意を喚起している。
 また,シンポでは他の演者の報告を巡っても,安全性に関わる議論が交わされた。うつ病の動物モデルにおいて,鎮咳効果量で新規の抗うつ様活性を示した鎮咳薬チペピジン(アスベリン®)の作用について報告した熊本大の高濱和夫氏は,これもフロアからの質問に答えて,「側坐核のドパミンレベル増加を介して抗うつ様作用を発現していることから,薬物依存性への懸念は重要な問題だ。しかしアスベリンについては,小児の鎮咳薬として50~60年使われてきている実績があるということと,イヌへの60日くらいの連続投与結果から見て,まず大丈夫かなと考えられる」との見解を示す一方,これまで頓服薬として使用されてきている鎮咳薬を,別の抗うつ薬として常用することへの懸念を示し,慎重に進める必要があると述べた。
 厚労省の井本昌克氏は,「DRの手法は,既に臨床使用実績が存在するため,新たに非臨床試験から開発するよりもずっと有利な点が多い」としながらも,「多機能な薬効を示す医薬品は,目的とする効能以外ではむしろ副作用を示すことになる。また,物質特許を有さない企業による開発参入の問題等課題も多い」として,DRのデメリットとしての「諸刃の剣」の側面を指摘した。
 さらに井本氏は,「DRを利用した医薬品開発への期待」として,適応外使用についても言及し,臨床現場での治療法の模索から多面的な可能性が見いだせる適応外使用は,“DRの先駆け”かもしれないと述べた。「適応外使用というのはリ・プロファイリングそのものなのだろうと思う。合法的な適応のエビデンスをもって使用されるその流れ自身が,まさにDRそのもの」というわけだ。
 DR品の低薬価問題や後発品対策,さらには新効能の特許所有権の在り処など,輻輳する課題を抱えるわが国DR研究の今後を占うに当たって,示唆に富む見解と言えそうだ。

開発不成功品の引き合わせサイト
米NIH・CTSAプロジェクト

 先述のように米国では,わが国のDR研究議論よりも数歩先んじたところでの,ドラッグ再ポジショニング・プロジェクトが国家的規模で進められており注目される。ネイチャー・メディシン誌2)によるものだ。
 「製薬会社の『棚』には捨て切れない開発不成功医薬品がいっぱいだ。病める実験動物への治療効果がなかったか,でなければ何らかのためらいから,開発パイプラインから外れた化合物群である2)」。
 複雑な過去を持つこれらのコレクションだが,アカデミックな研究者たちにとっては,宝の山に見えるということにもなるわけだ。そこで生まれたのが,米国立衛生研究所(NIH)が支援するCTSA(Clinical and Translational Science Awards)のwebポータルサイトであり,「医薬品の再ポジショニングのためのアカデミアと産業のマッチング」を目的とするものだ。
 因みにCTSAとは2006年に発足したNIHによる臨床研究支援組織で,2008年秋に薬物資源のポータルサイトをオープンし,薬物探索研究者と製薬企業とのマッチング計画を実行に移している。CTSAポータルサイトには,昨年12月の時点で約350人の研究者が登録されており,さらに2010年末には,900人にまで登録者数を増やすことを目標にしている2)
 研究者たちはポータルを通じて求める化合物を名指しで検索することができるし,目的とするターゲットに関連する薬を持っている製薬会社を検索することができる。また,製薬会社の側でもサイトを通じて,パートナーとなり得る専門研究者を見つけることができるという仕掛けだ。
 しかし,このCTSAポータルサイトにおいても,今後さらに「医薬品の再ポジショニングのためのアカデミアと産業のマッチング」を実現していくに当たっては,未だいくつかの克服しなければならない課題に直面しているという2)。このプロジェクトの強力なパートナーとしての存在はファイザーだが,そのファイザーですら,すべての自社化合物のカタログを備えるようになったのは最近のことだ2)
 CTSAポータルのDan Rader(ペンシルベニア大学トランスレーショナル薬物治療研究所)は言う。「挑戦すべき課題は,適切な薬を適切な治験責任医師(investigator)にマッチングさせることであり,率直に言って非常に堅固な法律上の,そしてロジスティック上の問題を解決することだ2)」。このあたりになると,ステージの違いを問わず,わが国とも共通した何かがあるようだ。

わが国の現況
 話は戻るが,日本薬学会のシンポでも,特に全体の議論にまでは至らなかったものの,オーガナイザーの水島氏の演述では,既に認可されている医薬品にとどまらず,「過去に使われていたが,その薬効が不十分で認可取り消しとなった医薬品」,また「フェーズ3において,薬効不十分で失敗した医薬品」についても,DR研究の対象とすべきとの言及のあったことを,ここで付記しておかねばならない。毎年米国で行われている国際会議(Drug Repositioning Summit)へのわが国からの参加・発表者は,これまでのところ水島氏らの研究室のみであるという。
 「やらなくてはならないことはたくさんあって,それは大学人のみでやれることではない。製薬企業にも協力を得なければならない。研究費の問題もある。みんなで協力してわが国でこういったものを発展させていく。そのような取り組みが,2010年問題のひとつの解決法にもつながっていくのではないか ―」(水島)。



参考文献
1)水島 徹:DRUG RE-PROFILING研究の現状と課題.日本薬学会第130年会要旨集1,p182 2010.
2)Matchmaking service links up researchers to wallflower drugs. Nature Medicine, Vol. 16, January, p7, 2010.


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