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医薬ジャーナル 2011年11月号(Vol.47 No.11)

p48(2662)~p61(2675)


▲メディカルトレンド・姉妹誌から


アレルギー・免疫(Vol.18 No.11) 特集・慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
化学療法の領域(Vol.27 No.11) 特集・在宅・通院患者における感染症の予防と治療
CLINICAL CALCIUM(Vol.21 No.11) 特集・ビタミンDの新たな展開
血液フロンティア(Vol.21 No.11) 特集・線溶系の新しい展開
Depression Frontier(2011 Vol.9 No.2) 特集・災害とうつ病およびその関連疾患

アレルギー・免疫(Vol.18 No.11)
《特集・慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患》
〔企画・日本医科大学耳鼻咽喉科学講座主任教授 大久保公裕〕

▲慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
序 ~慢性副鼻腔炎の多様性~
 慢性副鼻腔炎の病態が多様化してきている。鼻ポリープ(鼻茸)を伴うもの,伴わないもの,原因が細菌のもの,真菌のもの,細胞浸潤の主体が好中球のもの,好酸球のもの,喘息が合併するもの,しないものなど多くの観点から鑑別されるようになっている。もちろん治療法は進歩し,通常の慢性副鼻腔炎で歯齦切開から行う副鼻腔根本術はまず行われなくなってきている。喘息との関係でいうとone airway,one diseaseもあり,新たな切り口から慢性副鼻腔炎の整理ができるようにと,この特集を組んでみた。
(大久保公裕)

▲慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
I.慢性副鼻腔炎の分類
 副鼻腔炎は,罹病期間により急性と慢性,年齢により小児と成人に分類される。また,病態により,単核球浸潤優位な慢性化膿性副鼻腔炎と好酸球浸潤優位な副鼻腔炎(アレルギー性副鼻腔炎,好酸球性副鼻腔炎,アレルギー性真菌性副鼻腔炎)に分けられる。その他,真菌性,歯性,航空性副鼻腔炎と副鼻腔気管支症候群が挙げられる。
(春名眞一)

▲慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
II.喘息からみた鼻・副鼻腔病変
 鼻炎合併喘息患者では,鼻炎の悪化に伴い,約1/3~1/2で喘息症状悪化が見られ,ピークフロー値が低下する症例も観察される。
 気管支喘息と鼻炎の連関を念頭においた治療のポイントとしては,〈1〉 点鼻ステロイドなどの鼻治療により喘息症状が改善しうる,〈2〉 ロイコトリエン受容体拮抗薬は両者に有効であり積極的に使用する,〈3〉 免疫療法は両者の連関による症状悪化を妨げる可能性があるなどが挙げられる。副鼻腔炎合併喘息の治療も同様であるが,evidenceは少なく,副鼻腔炎の病態を考えながらの治療が必要と考えられる。
(中込一之・永田 真)

▲慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
III.鼻・副鼻腔病変からみた喘息
 喘息は副鼻腔炎の共有疾患としてみなされており,慢性副鼻腔炎の約50%に喘息を合併していることが知られている。近年の研究によると,上気道病変が下気道の症状や機能低下の原因因子や増悪因子となることが示唆されている。上気道病変の適切な治療が上気道症状のみならず,下気道病変の改善につながることも徐々に証明されてきた。副鼻腔粘膜の病理組織学所見から,好酸球型と非好酸球型に区別することで慢性鼻副鼻腔炎の亜分類を試みたことから,好酸球性副鼻腔炎の概念が生まれた。好酸球性副鼻腔炎の病態はまだ十分に解明されていないが,喘息を合併する場合が多く,また喘息の発症前の症例も多く含んでいるため,喘息との共通した病態が示唆されている。好酸球性副鼻腔炎の特徴は,〈1〉 多発性鼻ポリープ:特に,嗅裂,中鼻道の病変,〈2〉 喘息合併,〈3〉 著明な好酸球浸潤を伴う鼻ポリープ,〈4〉 好酸球に富む粘稠な鼻漏,時に膠状(好酸球性ムチン),〈5〉 早期の嗅覚障害,〈6〉 ステロイド剤の全身投与による鼻ポリープの消退,〈7〉 特徴的な画像診断である。内視鏡下副鼻腔手術は慢性副鼻腔炎の標準的な外科的治療であるが,合併する喘息の症状や薬物投与量の軽減をもたらす。血中の好酸球数や副鼻腔の病的粘膜の好酸球浸潤の増加が病変の重症度や術後の予後不良に相関することが判明している。術後治療の基盤薬剤として鼻用ステロイド噴霧薬・抗ロイコトリエン剤・Th2サイトカイン阻害剤,増悪時屯用としてステロイドの全身投与と抗菌剤を投与する。また鼻副鼻腔の細菌感染は副鼻腔病のみならず,喘息の再燃に関与することが判明し,喘息合併症例では副鼻腔炎の再燃の防止は喘息の良好な経過にも貢献する。
(池田勝久)

▲慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
IV.好酸球性副鼻腔炎と喘息
 著明な鼻茸中の好酸球浸潤を特徴とする難治性の慢性副鼻腔炎は,好酸球性副鼻腔炎として注目されている。好酸球性副鼻腔炎の約半数以上の症例が喘息を合併する。喘息を合併しない症例の多くも気道過敏性を示し,喘息発症のハイリスク・グループである。好酸球性副鼻腔炎の病態は全身性IgEに依存しない好酸球性炎症と考えられており,合併する喘息も成人発症の非アトピー型が多い。また,アスピリン喘息に合併する慢性副鼻腔炎のほとんどは好酸球性副鼻腔炎である。
(石戸谷淳一)

▲慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
V.アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎と呼吸器疾患
 アレルギー性副鼻腔真菌症(allergic fungal rhinosinusitis;AFRS)は再発率が非常に高い,副鼻腔真菌症の1つである。真菌に対する I 型/ III 型のアレルギー反応やT細胞応答などにより,鼻茸形成,ムチンの産生や著明な好酸球性炎症がみられる。AFRSではアレルギー疾患の合併が多いとされ,約2/3にアレルギー性鼻炎が,また約半数に喘息が合併するとされている。AFRSと類似の病態を示す下気道病変としてアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis;ABPA)がある。AFRSとABPAは稀に合併することがあり,sinobronchial allergic mycosis(SAM)症候群と呼ばれる。
(岡野光博)

▲慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
VI.アレルギー性鼻炎に伴う慢性副鼻腔炎
 本来のアレルギー性副鼻腔炎における副鼻腔陰影出現の機序について,副鼻腔粘膜でのアレルギー性炎症関与の有無や程度については議論が分かれるが,鼻粘膜での I 型アレルギー性炎症が深く関与していることは間違いない。治療の基本は,アレルギー性鼻炎の正しい診断と治療であるが,実際には経過中に鼻粘膜の易感染性により感染性副鼻腔炎を伴うことも多い。こうした例は,成人より小児で多く,種々の抗菌薬やマクロライド療法を適宜併用することも必要である。
(松根彰志)

▲慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
VII.それぞれの慢性鼻副鼻腔炎治療
 欧米では鼻茸を伴う慢性鼻副鼻腔炎(CRSwNP)はそのほとんどが局所への好酸球炎症が強く,易再発のいわゆる好酸球性鼻副鼻腔炎(ECRS)であり,鼻茸を伴わない慢性鼻副鼻腔炎(CRSwoNP)は非好酸球性鼻副鼻腔炎(NECRS)と考えられ,簡易的に鼻茸の有無による分類でガイドラインが作成されている。しかしアジアを含め本邦では,CRSwNPの中にNECRSが多く含まれ,これら欧米の分類でのガイドラインの使用は非常に危険である。そのため本稿においては欧米の治療ガイドラインを参考に,本邦において使用する際の解釈を加えながらそれぞれの治療法を解説したい。
(松脇由典)

▲慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
VIII.好酸球性中耳炎と喘息
 好酸球性中耳炎と喘息の関係は,アレルギー性鼻炎と喘息がone airway, one diseaseであるのと同様と考えられる。
 好酸球性中耳炎の治療は,ステロイドの点耳薬が基本となるが,喘息の病態形成にも重要なロイコトリエンに対する抗ロイコトリエン薬なども補助的に使用される。また喘息に対する吸入療法をステロイド薬から配合薬(salmeterol-fluticasone combination〔SFC〕など)に強化することにより好酸球性中耳炎が軽快する症例が存在することから,好酸球性中耳炎においては,上気道だけでなく下気道も含めた気道の総合的な治療が重要と考えられる。
(野中 学・田中友佳子)

▲慢性副鼻腔炎の病態と気道・中耳疾患
IX.副鼻腔炎に伴う喘息以外の呼吸器疾患
 副鼻腔気管支症候群(sinobronchial syndrome;SBS)は,上気道の炎症と下気道の炎症が同時に存在する病態で,本邦ではびまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis;DPB)が代表的な疾患と1つとされる。本稿では,慢性咳嗽の主な原因の1つであるSBSを,その代表的疾患であるDPBを中心に解説する。
(藤田和恵・吾妻安良太)

化学療法の領域(Vol.27 No.11)
《特集・在宅・通院患者における感染症の予防と治療》
〔企画・桜みちクリニック院長 永武 毅〕

▲在宅・通院患者における感染症の予防と治療
序 -在宅・通院患者における感染症の予防と治療-
 高齢・少子化社会の到来はさまざまな問題点を医療の現場にもたらしている。子どもの耐性菌感染症の増加の問題は,子どもに飲みやすくした甘い剤型の開発に成功して以降,呼吸器感染症の領域ではスピードが増している。世の中は医療費の削減に向けてあらゆる努力がなされている。
 本特集では,呼吸器,尿路および褥瘡感染症の予防と治療について,おもに在宅・外来の問題を語っていただいた。
(永武 毅)

▲在宅・通院患者における感染症の予防と治療
1.小児を中心に
 -在宅・通院患者における感染症の予防と治療について-

 在宅医療児は今後ますます増加することが予想されている。その主体である重症心身障害児(者)では呼吸器感染症の予防や治療に難渋することが多い。重症心身障害児(者)の管理で一般小児と違うところは,呼吸器感染症の原因として,一般的な急性ウイルス性疾患や市中肺炎の原因微生物に加え,誤嚥や耐性菌などのさまざまな因子の関与を考慮しなければならない点である。したがって,呼吸器感染症の管理では,重症心身障害児(者)の重症度,基礎疾患,呼吸状態にあわせた対応を選択していく必要がある。
(朽名 悟・星野 直)

▲在宅・通院患者における感染症の予防と治療
2.高齢者を中心に
 -在宅・通院患者における感染症の予防と治療について-

 高齢の患者は種々の慢性疾患を有していることが多いため,感染症の早期発見と適切な治療が重要であり,感染予防策も適宜必要である。在宅患者の診療にメーリングリストを活用して情報を共有する試みもなされている。
 高齢の在宅・通院患者の肺炎では,肺炎球菌,インフルエンザ菌などの呼吸器主要起炎菌の頻度が高いが,PRSP,BLNAR,MRSA,MDRPなどの耐性菌,結核菌,レジオネラ,誤嚥の関与にも注意すべきである。尿路感染症やカテーテル関連感染症にも注意する。
 感染症の予防として,イソジンによるうがい,手洗いに加えて,マスク着用,口腔ケア,嚥下リハビリ,誤嚥予防薬の投与を適宜行う一方,インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを併用することが重要である。
(真崎宏則)

▲在宅・通院患者における感染症の予防と治療
3.外来診療における感染症の予防と治療について
 外来診療で頻度の高い感染症は,外界と直接接している上気道を含めた耳鼻咽喉科領域,気管支,肺,消化器,尿路の感染症である。治療には対症療法に加えて,特異的な抗ウイルス薬,一般抗菌薬,γグロブリン製剤などを用いるが,それぞれ原因微生物を同定あるいは(感染症部位,宿主の免疫状態,地域,季節などから)想定することが重要である。
 外来・入院を問わず感染症の予防は,感染源,感染経路,個体宿主の感受性の3要素のどれかを断ちきることが必要条件だが,最良の予防法は“感染症に精通する”ことである。目に見えないから知らぬ間に感染してしまうのであって,病原微生物が見えさえすれば,触ったり吸いこんだりする人間はいないはずである。
(三木 誠・渡辺 彰)

▲在宅・通院患者における感染症の予防と治療
4.呼吸器病原菌の耐性菌激増の背景,家庭内感染について
 肺炎球菌,インフルエンザ菌およびモラキセラ・カタラ-リスは,健常人,特に小児の上気道に定着しやすく,市中肺炎を含めたさまざまな気道感染症を引き起こす重要な呼吸器病原菌である。近年,わが国においてペニシリン耐性肺炎球菌やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌などの耐性菌が急増し,感染症の難治化や遷延化などが臨床上の問題となっている。これまで,保育所などの集団生活により,これらの病原菌は園児間で水平伝播し中耳炎や気道感染症などを引き起こすと言われていたが,保育所などで広まるだけではなく,家庭内における兄弟間や親子間においても伝播することが報告されており,耐性菌激増の一因になりうると考えられる。
(秦 亮・渡邊 浩)

▲在宅・通院患者における感染症の予防と治療
5.在宅・通院患者における外科系感染症の予防と治療について
 ここで言う外科系感染症とは外科的処置を要する感染症と理解して稿を進める。外科的処置を要するというのはドレナージや手術が必要ということである。感染症のうち,これらの処置が必要となる可能性があるものとして,〈1〉 皮膚・軟部組織感染症,咬傷,〈2〉 各種臓器に形成される膿瘍,〈3〉 体液排泄が閉塞してそこに感染が起こる場合などがあげられる。この順に解説を加える。
(荒川創一)

▲在宅・通院患者における感染症の予防と治療
6.泌尿器病原菌の耐性菌激増の現状と背景について
 尿路感染症の起炎菌として代表的な大腸菌のキノロン系抗菌薬に対する耐性化について概説する。尿路感染症から分離される大腸菌の20%弱がキノロン耐性との報告もあり,特に複雑性尿路感染症から分離される大腸菌で,そのような傾向がみられた。また,急性膀胱炎患者から分離される大腸菌でもキノロン耐性株が検出されるようになってきている。尿路感染症の代表的な起炎菌でキノロン耐性が問題となっており,キノロン系抗菌薬の過剰な使用を見直し,他の有効な抗菌薬の使用も考慮する必要がある。
(高橋 聡)

▲在宅・通院患者における感染症の予防と治療
7.在宅医療における褥瘡の治療と感染対策
 -ラップ療法を中心に-

 ラップや紙おむつなどの日用品を用いるラップ療法(Wrap Therapy)は慢性期医療施設や在宅医療の現場を中心に普及している。ラップ療法で用いるドレッシングは高吸収性でありながら湿潤環境を維持し,創治癒に適した条件を与える。すべりがよく,皮膚に固定されないため,局所に加わる強い摩擦力を打ち消して創損傷を防ぐことにより治癒が促進される。廉価なドレッシングは毎日交換することが可能なため,その結果,創部を清潔に保つことができる。清潔なケア,創のドレナージおよび抗生剤全身投与によって創感染が容易にコントロールされる。ヨードや銀などの消毒剤は抗菌効果に比べ細胞毒性が強く,創治癒を遷延させる可能性がある。ラップ療法の原理を応用した衛生材料(モイスキンパッド®)が市販され,治療の選択肢が広がった。
(鳥谷部俊一)

▲在宅・通院患者における感染症の予防と治療
8.在宅医療における感染症の管理と予防に対する今後の展望
 -行政の立場から-

 現代医療において在宅医療は急速にその比重が増大してきているが,わが国にはいまだ在宅医療における感染制御についてのガイドラインは存在しない。在宅においても感染制御の基本はスタンダードプリコーション(標準予防策)を実践することが原則であり,「感染源を持ち込まない,持ち出さない」ことが予防のポイントである。在宅における感染制御を効率的に行うために介護サービス事業所の管理者は,その規模と構成に応じて感染対策委員会を開催し,在宅における感染制御マニュアルを作成,在宅療養者の感染予防を実践する必要がある。医療施設に比較し,在宅における感染制御について行政的なかかわりは少ない。各地域の特色を生かした地域医療連携を整備して,その中で在宅における感染制御を推進することが望ましい。
(鈴木幹三・山本洋行・矢野久子)

CLINICAL CALCIUM(Vol.21 No.11)
《特集・ビタミンDの新たな展開》
〔企画・徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部生体情報内科学教授 松本俊夫〕

▲ビタミンDの新たな展開:Preface
巻頭言
 ~ビタミンD研究の新たな展開と新規活性型ビタミンD誘導体~

 ビタミンDは全身の多彩な臓器で多様な作用を発揮する。栄養素としてのビタミンDの欠乏により,癌,心血管疾患,糖尿病,自己免疫疾患,感染症などのリスクが増大する可能性も疫学的研究を中心に数多く指摘されてきた。
 その結果,米国等ではビタミンDサプリメントの使用が急増したことなどから,健常者における充足閾値を示したIOM(Institute of Medicine)レポートが発表された。
 これが多くの議論を呼び,専門家の立場からむしろビタミンD欠乏の可能性のある対象者における閾値の再定義と補充量の提案がされた。
 ビタミンDおよびその新規誘導体エルデカルシトールに関する最新情報を網羅した本特集が,幅広い領域の皆様のお役に立てば幸いである。
(松本俊夫)

▲ビタミンDの新たな展開:Review
ビタミンDの欠乏・不足と充足
 2010年秋,米国IOMが,ビタミンDの食事摂取基準レポートを発表して以来,ビタミンD欠乏と充足を巡る議論が沸騰している。ここ数年,米国ではビタミンD充足閾値を血清25(OH)D値30ng/mLとするのが一般的であったが,IOMは20ng/mLを閾値とし,健常一般人口の97.5%がこの目標値に到達するためのビタミンD摂取量を推奨した。この値も,従来の骨・ミネラル代謝専門医が推奨していた量より少なかった。多くの議論の末,2011年7月,米国内分泌学会はIOMとは異なる,ビタミンD欠乏ガイドラインを公表した。
 本総説では,両者の違いを解説するとともに,ビタミンD充足をめぐる最近の議論を概説する。
(岡崎 亮)

▲ビタミンDの新たな展開:Review
活性型ビタミンD3と骨粗鬆症
 活性型ビタミンD3の骨密度(BMD)増加効果はわずかであるが,BMDから予測される以上の骨折防止効果を示す。ビタミンDの筋力や運動能力などへの作用が転倒リスクを低減し,骨折リスクの抑制につながるとされる。また,動物実験にて活性型ビタミンD3による海綿骨微細構造の改善や骨コラーゲン中の酵素依存的架橋の増加など骨質改善作用も報告されている。骨吸収抑制薬とは異なる骨への作用を有し,ビスホスホネートと活性型ビタミンD3の併用効果の有用性が立証されている。
(山内美香・杉本利嗣)

▲ビタミンDの新たな展開:Review
ビタミンDと続発性副甲状腺機能亢進症
 慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)では,残存するネフロン数の減少により,リン蓄積と1,25(OH)2D産生低下を引き起こす。長年その代償機構と考えられてきた続発性副甲状腺機能亢進症(secondary hyperparathyroidism:SHPT)は,fibroblast growth factor23(FGF23)の発見で,その発症機序,進展について,次々と新たな知見が明らかとなってきた。さらに最近では,CKD患者における25(OH)Dの低下によって反映されるビタミンD不足も指摘され,1,25(OH)2D産生低下を介さないSHPTへの関与も考えられている。現在活性型ビタミンD製剤は,SHPTの治療として広く使用されているが,腸管のカルシウムおよびリン吸収を増加させ,高カルシウム血症および高リン血症を引き起こすという問題がある。そこで,PTH抑制効果を持ちながら,これら副作用を減弱したビタミンDアナログ製剤であるparicalcitolやmaxacalcitol,doxercalciferolなどが市販されるようになった。SHPTに対する新たな治療戦略が,患者予後の改善につながることが期待されている。
は国内未承認)
(田中寿絵・駒場大峰・深川雅史)

▲ビタミンDの新たな展開:Review
活性型ビタミンDと乾癬
 (かん)(せん)は,慢性難治性皮膚疾患である。表皮細胞の異常増殖とそれに伴う角化異常が認められる。乾癬の根治療法はないが,その治療法は多岐にわたる。その中でも,活性型ビタミンD3製剤は,その有効性と安全性から治療の第一選択薬になっており,症状に応じて他剤との併用療法が行われる。乾癬ではその症状の外観や長期治療経過などから,患者の生活の質(QOL)はかなり低下している。したがって,乾癬の治療の目標は,いかに慢性の症状をコントロールし,患者のQOLを向上させるかにある。
(大黒正志・森本茂人)

▲ビタミンDの新たな展開:Seminar
骨組織内でのVDRは,負の骨量調節因子か?
 ビタミンDは,骨量維持や骨代謝に対し,代表的な正の調節因子である。しかしながら,in vitro 培養細胞系では,骨吸収促進因子としてむしろ負の調節因子として働くことが古くから報告されてきた。筆者らのグループは,マウスを用いた分子遺伝学的アプローチにより,ビタミンD受容体(VDR)の高次機能を検討する過程で,骨組織内の骨芽細胞では,VDRは個体レベルで骨量維持に対し負の調節因子であることを証明した。
(加藤茂明・山本陽子)

▲ビタミンDの新たな展開:Seminar
新規ビタミンD誘導体エルデカルシトールの探索・生理活性・薬物動態
 活性型ビタミンDのプロドラッグであるアルファカルシドールの臨床応用が開始され始めた1981年,それまで骨・カルシウム代謝にのみ関与していると思われていた活性型ビタミンDに,新たな生理作用として分化誘導作用が発見された。それを契機として活性型ビタミンDにいろいろな生理作用が見出され,それらが臨床上有用なことから,誘導体を合成して生理作用に強弱を持たせることで,合目的的な医薬を開発する機運が高まった。現在までに乾癬や二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬としていくつかの誘導体が役立っている。本稿では今年,新たな骨粗鬆症治療薬としてその仲間入りをしたエルデカルシトールの,探索研究と生理活性および予想代謝物を中心とする薬物動態について概説する。
(久保寺 登)

▲ビタミンDの新たな展開:Seminar
エルデカルシトールによるラット骨組織微細形態の変化
 ~エルデカルシトールの骨吸収抑制作用と骨形成作用~

 エルデカルシトールを卵巣摘出ラットに投与すると,破骨細胞数の減少と破骨細胞性骨吸収の低下だけではなく,骨吸収に依存しない骨形成(ミニモデリング)が誘導される。組織学的には,破骨細胞数の減少および破骨細胞の骨吸収抑制,活性型マクロファージ数の増加,骨密度の上昇を認めた。ミニモデリングは破骨細胞による骨吸収に依存しない骨形成であり,その骨表面上には活性型骨芽細胞が観察された。しかし,破骨細胞分化を支持する前骨芽細胞はその数が減少しており,発達した前骨芽細胞のネットワークは観察されなかった。また,エルデカルシトールは,前骨芽細胞を,細胞増殖ではなく活性型骨芽細胞へ誘導させることでミニモデリングという局所的な骨形成を可能にすると推測された。一方,エルデカルシトールによって減少した前骨芽細胞のため,破骨細胞・マクロファージ前駆細胞との細胞間接触が低下し,破骨細胞形成が抑制されると推察された。
(本郷裕美・佐々木宗輝・長谷川智香・網塚憲生)

▲ビタミンDの新たな展開:Topics
ビタミンDと転倒
 加齢とともに皮下における紫外線作用によるビタミンDの生体内合成は低下し,容易にビタミンD欠乏状態をもたらすようになる。高齢者において,このようなビタミンD欠乏症は単に骨代謝をもたらすだけでなく,筋病変をももたらすことになる。血中のビタミンD濃度の低下は筋力低下,サルコペニア,生活機能の低下そして障害などと関連している。わが国の研究も含めて最近の多くの研究から,血中ビタミンD[25(OH)D]濃度の低下は高齢者の身体機能や転倒とも関連していることが明らかにされている。ここで紹介するのは,75歳以上の地域在宅高齢女性の前向き調査による検討である。初回調査での25(OH)Dが20ng/mL以下の高齢者が35.2%も出現していた。さらに初回調査時の分布から3分位で分析すると,最高位に対し最低位の高齢者では転倒および複数回の繰り返し転倒のリスクが有意に高く,また転倒を目的変数とする多重ロジスティック回帰モデルによる分析から,25(OH)Dは転倒発生に関する独立した有意な危険因子であることが判明し,今後高齢者の血中25(OH)D濃度の維持が必要であることが示唆されている。
(鈴木隆雄)

▲ビタミンDの新たな展開:Topics
ビタミンDによるマクロファージ機能制御と感染症
 ビタミンDの多様な生物活性の中でも,免疫細胞に対する作用は30年以上前から知られている。ビタミンD受容体はリンパ球や単球・マクロファージなど多くの免疫担当細胞に発現されているが,実際の免疫系に対するビタミンDの作用は長い間あまり明らかではなかった。最近ビタミンDがマクロファージにおいて抗菌ペプチドを誘導し,autophagyを起こすことが明らかとなった。これによりビタミンDの免疫調節作用,特に以前から指摘されてきた結核菌感染症などに対抗する自然免疫賦活化作用がより明確に理解されるようになった。
 本稿ではこのような自然免疫に対するビタミンDの作用と感染に対するビタミンDの臨床的効果について最近の知見をまとめる。
(井上大輔)

▲ビタミンDの新たな展開:Topics
エルデカルシトールの骨吸収抑制作用
 活性型ビタミンD3誘導体エルデカルシトールは,2011年4月に販売が開始された骨粗鬆症治療薬である。従来の活性型ビタミンD3製剤が持つカルシウム吸収促進作用に加え,強力な骨量増加作用を示す。その骨量増加作用は,骨吸収抑制に起因する。マウスを用いたin vivo 実験より,本製剤は,破骨細胞前駆細胞の形成を抑制しないが,骨のRANKL発現を抑制した。エルデカルシトールは破骨細胞の形成支持環境を制御する可能性が示された。
(原田 卓・溝口利英・高橋直之)

▲ビタミンDの新たな展開:Therapy
エルデカルシトールの骨代謝改善作用とカルシウム代謝への影響
 エルデカルシトールは,1α,25(OH)2D3の2β位にヒドロキシプロピルオキシ基を導入した新規ビタミンD受容体リガンドである。卵巣摘出ラットモデルにおいて,エルデカルシトールは骨吸収を抑制するとともに骨形成を維持させることにより,骨密度および力学的強度を増加させる作用を有する。ヒトにおいても,ビタミンDステイタスによらず腰椎および大腿骨骨密度増加作用を有している。さらに,骨粗鬆症患者におけるエルデカルシトール投与は,アルファカルシドールと比較して椎体および橈骨骨折のリスクを低下させ,骨代謝回転を強力に抑制することが明らかとなった。また,有害事象もアルファカルシドールと同程度であり,安全に使用できると考えられる。
(遠藤逸朗・松本俊夫)

▲ビタミンDの新たな展開:Therapy
エルデカルシトールの骨密度増加作用と骨折防止効果
 ~層別解析結果~

 エルデカルシトールの臨床第 III 相試験結果(アルファカルシドールとの比較試験)について,年齢,ビタミンDレベル,既存椎体骨折の有無,ベースラインの腰椎骨密度値により層別解析を行った。
 腰椎骨密度値は年齢,25(OH)D値,既存椎体骨折,ベースラインの腰椎骨密度値に関して層別したいずれの群においても,エルデカルシトール群では3年間で3%以上の増加が見られ,いずれもアルファカルシドールに対して有意な増加であった。年齢,25(OH)D値,既存椎体骨折に関して層別したいずれの群においても,エルデカルシトール群はアルファカルシドール群と比較して椎体骨折発生頻度が低く,年齢で分けた2群では,70歳以上の集団で有意な骨折抑制がみられた。本試験結果をミノドロン酸の第 III 相臨床試験におけるプラセボ群と比較したところ,1年あたりの椎体骨折発生頻度は,ミノドロン酸のプラセボ群に対してアルファカルシドールは約30%,エルデカルシトールは約50%低値であった。エルデカルシトールの腰椎骨密度増加効果や椎体骨折抑制効果は患者の背景因子によらず認められる傾向があり,広く骨粗鬆症患者の治療に有益であると考えられる。
(萩野 浩)

▲ビタミンDの新たな展開:Therapy
エルデカルシトールの骨構造改善作用
 新規活性型ビタミンD誘導体であるエルデカルシトールには,新規椎体骨折および主要非椎体骨折発生抑制においてアルファカルシドールに比べて優れた効果を有することが示された。
 病態モデル動物においては,従来の活性型ビタミンDに比べて骨代謝における効果が高いことが示され,骨微細構造改善にも関係している。
 さらに臨床データとして,エルデカルシトール治療3年間の観察では,臨床用CT(MDCT)を用いて大腿骨ジオメトリーを評価すると,エルデカルシトールは大腿骨頸部横断面の皮質骨面積を増加させ,皮質骨幅を維持し,骨力学パラメターを改善することが示された。その変化はアルファカルシドールに比べて皮質骨内膜面での骨吸収を抑制する効果が高いことによると考えられた。
(伊東昌子)

血液フロンティア(Vol.21 No.11)
《特集・線溶系の新しい展開》
〔企画・浜松医科大学第2生理学教授 浦野哲盟〕

▲線溶系の新しい展開
序 ~線溶活性の発現の場と活性調節~
 抗血栓機構としての線溶系の積極的な役割が注目される中,血管内皮細胞上の線溶活性発現および増幅機構の詳細が明らかになってきた。tPAの分泌後の内皮細胞上への滞留,ならびにリジン結合部位を介したプラスミノゲンのフィブリン,あるいは細胞表面蛋白への結合の重要性が示されている。PAI-1あるいはTAFIは,これらを修飾して線溶活性発現を阻害することから,創薬の標的となっている。血管外では,細胞移動や組織修復,あるいは神経機能に関わる線溶系の役割が明らかになってきた。
(浦野哲盟)

▲線溶系の新しい展開
1.血管内皮細胞上の線溶活性調節機構
 血管内皮細胞はセリンプロテアーゼである組織型プラスミノゲンアクチベーター(tPA)を活性型酵素として分泌し,血管壁恒常性の維持に寄与する。
 血管内皮細胞からのGFP融合tPA(tPA-GFP)の開口放出動態の全反射蛍光顕微鏡によるリアルタイムイメージング解析から,内皮細胞特有のtPA-GFP滞留現象が明らかになり,この滞留tPAによる細胞表面線溶活性の発現-増幅機構がみえてきた。これまでの液相中・フィブリン固相上における線溶活性調節に加え,新たな視点として血管内皮細胞上での調節機構を提言する。
(鈴木優子)

▲線溶系の新しい展開
2.線溶系と炎症
 PAI-1は線溶系の主要な阻害因子であり,血中ではtPAを阻害することにより血栓を安定化させる。組織ではuPAを阻害することにより,細胞外基質の分解を抑制する。炎症性サイトカインやいくつかのホルモンは,様々な細胞でPAI-1産生を制御している。血管や組織でのPAI-1発現上昇は,血栓や線維化と関連する。また,PAI-1は動脈硬化症,血管再狭窄や腫瘍などにも関与する。
 このような病態では,tPAやuPAを阻害するというだけではPAI-1の果たす役割を十分に説明できない。PAI-1は直接,細胞増殖やアポトーシスに関与する可能性がある。PAI-1阻害薬が新しい薬物の候補として検討されている。
(藤井 聡・朝倉健文)

▲線溶系の新しい展開
3.線溶系とアレルギー
 線維素溶解反応(線溶反応)の主作用は,様々な生体侵襲において凝固反応が活性化され,血管内や組織にフィブリンが形成された際に,フィブリンを至適に分解することにより臓器虚血から生体を防御するシステムである。一方で,線溶因子は生体内の様々な組織において多彩な生理活性を有する。
 特に,PAI-1による線溶系の制御を介するマトリックスメタロプロテアーゼ活性の動態が,気管支喘息で反復する炎症反応に伴うフィブリン沈着や細胞外マトリックスの病的な再構築に密接に関連する。またPAI-1は,鼻粘膜での局所感作においてIgG1やIgEの増加やIL-4およびIL-5を促すことにより,Th2型の免疫応答を誘導しアレルギー性鼻炎を惹起する。
(窓岩清治)

▲線溶系の新しい展開
4.線溶系と神経機能
 線溶因子は神経系においても広く発現しており,神経可塑性や記憶などの生理的機能および虚血性神経細胞死や興奮毒性などの病態生理的な反応に寄与している。線溶因子のうち,特に重要なのは組織型プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)であり,これまでに中枢神経系における多くの作用が報告されている。これらの線溶因子の作用はプロテアーゼ活性による細胞外タンパク質分解を介する機序と,レセプターの活性化を介する機序に大別される。本稿では,神経機能における線溶因子の寄与と作用メカニズムについて概説する。
(永井信夫)

▲線溶系の新しい展開
5.線溶系を起点とした造血制御機構
 生体骨髄内の造血幹細胞の至適微小環境(ニッチ)への定着と離脱の分子制御機構は,造血系細胞の分化,増殖,そして動員等の細胞動態と密接な関連性を有していることが明らかとなってきている。近年,こうした造血系細胞動態における金属要求性蛋白分解酵素(マトリックスメタロプロテイナーゼ:MMP)の重要性が提起されているが,筆者らは造血幹細胞ニッチの構成分子が,生体内のMMP活性を介した血液線維素溶解系(線溶系)因子プラスミンの生成を起点として制御されていることを明らかにした。線溶系およびMMP等の各種プロテアーゼ活性は,生体内造血のみならず組織再生の起点として機能していることが示唆されている。
(服部浩一・西田知恵美)

▲線溶系の新しい展開
6.線溶系と組織再生
 線溶は血管内に形成されたフィブリン塊を分解除去する機構で,血液の流動性の維持に重要である。一方,線溶酵素が細胞表面に局在し,その周囲にプロテアーゼ活性を提供する細胞線溶という概念が存在する。細胞線溶では線溶系の持つタンパク質分解能が細胞の遊走・浸潤や,腫瘍の浸潤・転移などの細胞運動や,細胞外マトリックスの分解・再構築を介した組織再構築,血管新生など,生体内の様々な現象に関与することが明らかにされてきている。本稿では,組織再生における線溶の役割について,肝障害時におこる肝再生を例に紹介する。
(奥村暢章・関 泰一郎)

▲線溶系の新しい展開
7.先天性線溶系インヒビター欠損
 血液凝固反応によって産生される血栓の主要因子であるフィブリンは,線溶反応によって分解される。線溶反応の主体となる分子はプラスミンであり,血漿中のプラスミノゲン(Plg)からプラスミノゲン活性化因子による活性化を受けて産生される。この線溶反応の活性化を阻止する因子としては,α2 plasmin inhibitor(α2PI),Plg activator inhibitor-1(PAI-1),Thrombin-activatable Fibrinolysis Inhibitor(TAFI)の存在が知られており,各々異なる機序で線溶反応を制御する。ヒトにおいてはα2PIとPAI-1の先天性欠損症が報告されており,それぞれ後出血を特徴とする出血傾向を示すのに対して,遺伝子欠損マウスではそのような出血傾向を認めることはなかった。したがって,生体内における線溶系インヒビター欠損からそれらの因子の機能を研究する上で,マウスとヒトでの違いは大きく認識されるべき問題であると考えられた。
(岩城孝行)

▲線溶系の新しい展開
8.急性前骨髄球性白血病の過剰線溶活性発現機構とその制御
 急性前骨髄球性白血病(APL)は,発症早期に播種性血管内血液凝固症(DIC)を来しやすく,致命的な出血を合併する。APL患者を救命するためには,このDICに対する早急な対応が必要である。全トランスレチノイン酸(ATRA)が寛解導入療法に用いられるようになり,高い寛解率・生存率が得られ,DICの制御も容易になったとされている。
 しかしながら,出血死は依然としてAPL治療時の重要な問題点であり,今後DICに対する新たな治療戦略が必要と考えられる。遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(rTM)は新規な作用機序を有し,安全で有効性が高いDIC治療薬であり,APLに合併するDICに対して速やかな改善効果を示している。rTMの速やかなDIC改善作用は,APLによる早期出血死を低減させる強力な支持療法として期待される。
(池添隆之)

Depression Frontier(2011 Vol.9 No.2)
《特集・災害とうつ病およびその関連疾患》
〔企画・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経病態学教室教授 内富庸介〕

▲巻頭言
高齢者の気分障害
 老齢期には気分障害が多い。双極性障害も関心を集めているが,多くはうつ病性障害である。現代型うつ病は今のところほとんどないが,そのうち増えてくるかもしれない。老齢期のうつ病は重症化しやすい,自殺に結び付きやすい,治療薬の有害事象に悩まされるなどの特徴がある。
 2011年8月に新聞報道された人口動態の調査結果では,わが国の高齢化率は22.8%とあった。ある調査では,大うつ病の時点有病率は男性0.4%,女性1.4%であり,多く見積もると全国に50万人を超える高齢うつ病患者がいることになる。
(前田 潔)

▲特集・災害とうつ病およびその関連疾患
特集にあたって
 ~東日本大震災からの復興のために~

 本特集は,東日本大震災が発生した2011年3月11日の一カ月ほど後に開かれた編集会議で企画された。発刊された2011年秋には,被災者の急性期の後のメンタルヘルスの問題も生じて来ているであろう。
 被災者のうつ病を含むメンタルヘルスに従事する精神保健の専門家だけでなく,広く役立つ内容となっているので,是非役立てていただきたい。
(内富庸介)

▲特集・災害とうつ病およびその関連疾患
1.災害後の心理的経過とサポート
 災害後の心理的経過については,Raphaelなどによる,いくつかの記載がある。それらを概観すると,共通のパターンが推測できる。つまり,各心理過程の急性期のテーマは,「否認」,「ハネムーン」期などに認められる,現実検討能力の揺らぎである。
 従って,この時期のサポートは,安全の確保や心理教育など,自己コントロール感を回復させる試みとなる。亜急性期から慢性期にかけてのテーマは,「抑うつ」,「幻滅」期などに認められる,情動への対応である。この時期におけるサポートは,慰霊祭などの,喪の作業を促進させる試みである。
 また同時期に,心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病などへの,医療的対応が必要な場合が生じる。さらにサポートの際には,急性期から慢性期に至る過渡期に展開される,外因性ボーダーライン状況に注意すべきである。
(丸岡隆之・前田正治)

▲特集・災害とうつ病およびその関連疾患
2.地震とメンタルヘルス
 ~うつ病を含めて:新潟県中越地震を踏まえて~

 本稿では,地震とメンタルヘルスについて,筆者らの新潟県中越地震(中越地震)でのこころのケア活動の経験と,震災5カ月後,そして2年後に被災者約3,000名を対象に行ったアンケート結果を述べた。
 不安や抑うつは,程度の差こそあれ,大災害後の被災者に通常生じるストレス反応であり,特別なことではない。中越地震では,2年後においても,精神的に不健康状態にある被災者の割合は,男性で3割強,女性では5割弱に上った。
 このことからも,大災害からの真の復興は想像以上に長期化することが分かる。
 2011年3月に起こった国難とも言える東日本大震災を慮る時,長期のこころのケア活動は一体いつまで続いていくのか,早急かつ十分な国レベルの対策が求められる。
(塩入俊樹・桑原秀樹・川村 剛)

▲特集・災害とうつ病およびその関連疾患
3.放射線被曝とメンタルヘルス
 ~うつ病を含めて~

 災害による放射線被曝によって引き起こされるメンタルヘルス不調に関する調査研究を概観した。東日本大震災における福島第一原子力発電所事故の全容解明とその収束は,今後長期間かかると予想され,周辺住民だけでなく国民全体への精神心理的負荷は多大である。そこで,本稿では,主に事故災害による放射線被曝を対象とし,国内は地域における放射線漏出事故,国外は米国および旧ソビエト連邦の原発事故のストレス影響を扱った。包括すれば,災害の規模とメンタルヘルス不調の相関が推察され,その症状は抑うつと不安を中心に,不定愁訴や自律神経失調症のような身体化,一部には心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic stress disorder:PTSD)様症状と思われる報告も見られた。その一方,原発事故は沈黙の災害(silent disaster)とされ,放射線被曝の実質的被害がない場合であっても,ストレスの影響は広範囲に発展し長期に亘りやすいという特徴も指摘されてきた。これらは見えないトラウマ(invisible trauma)とも言われる放射線被曝特有のメンタルヘルス不調と言えるのかもしれないが,こうした不調に対する心のケアは,一時的な感情に駆られることのない,また過大でも過小でもない冷静な判断が求められる。原発事故による放射能汚染の情報は,当局や専門家に依存していることから,精神医療の問題に留まらず,今後,国や国民一人ひとりのリスク認知のあり方まで問われるストレス問題として,科学的究明と対策が急がれる。
(丸山総一郎)

▲特集・災害とうつ病およびその関連疾患
4.医療支援中のメンタルヘルス,医療支援復帰後のうつ病
 東日本大震災により東北地方太平洋沿岸を中心に多くの住民が被災し,こころのケアチームに代表されるように医療支援チームが活動を行っている。医療支援者は災害現場での医療活動の中で,外傷体験や,医療支援チームで働くこと,関係調整などさまざまなストレスの曝露を受ける。医療支援者は,活動時や業務復帰後もメンタルヘルスの不調が起きることも想定されるため,メンタルヘルス対策に取り組む必要がある。具体的には,チーム編成,事前準備,コミュニケーションの取り方,チーム内での分かち合い,傾聴,問題解決,リラクセーションなどを考慮する必要がある。そして,多くの医療従事者が医療支援者のメンタルヘルス対策を知る必要がある。
(大塚耕太郎・酒井明夫・佐藤瑠美子・冨澤秀光・佐賀雄大・藤原恵真・久保千尋・吉田美穂子・中村 光・赤平美津子)

▲トピックス
認知行動療法センター開設とその役割
 2011年(平成23年)4月に独立行政法人国立精神・神経医療研究センター内に認知行動療法センターが開設された。これは,〈1〉 認知療法・認知行動療法を実施できるさまざまな職種の人材の育成,〈2〉 認知療法・認知行動療法の臨床研究,〈3〉 認知療法・認知行動療法の提供とそれを用いたさまざまな領域における活動の支援を,国レベルで進めていくことを目的として,ナショナルセンター内に設立されたものである。認知療法・認知行動療法が注目されるようになった背景について紹介しながら,認知行動療法センターの開設の意義と役割について解説した。
(大野 裕)

▲トピックス
セクシャルマイノリティーのメンタルヘルス
 ~性同一性障害とうつ病・うつ状態を中心に~

 セクシャルマイノリティー(sexual minority;性的少数者)とは,何らかの意味で「性」のあり方が非典型的であり,少数者に属する人のことである。性には多様性があるが,社会は単純な男女二分法が大勢を占め,彼らの持つ性の多様性と齟齬を生じる。マイノリティーと称されるが,人口の数パーセントを占め,精神科臨床の場で日常的に考慮されるべきであると考えられる。当事者は,性のあり方が錯綜している以外,精神的に健全であることが多く,基本的知識を持って支持的な対応を行えば十分な援助になるため,関係者の啓発が必要である。
(松本洋輔)

▲うつ病治療の実際
注意訓練による認知行動療法の増強効果
 本稿は,抑うつ症状に対して認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy:CBT)を行ううえで重要な変数となる注意制御機能の特徴について概括し,注意制御機能を向上する技法(注意訓練;Attention Training:ATT)をCBTに取り入れることの有用性について論じた。ATTがCBTの効果を増強する作用については,CBTの妨害要因である「反証しようと思ってもネガティブなことに気がいってしまう」という受動的注意制御と,確証型認知的対処の問題を改善する効果をATTが有していることについて,実証研究を紹介しながら論考した。
(今井正司・熊野宏昭)

▲うつ病研究における海外の動向
海外における新規抗うつ薬の開発動向
 薬物療法の向上には,既承認薬に関するエビデンスを蓄積し治療戦略を確立するとともに,新薬開発を行っていくことも重要である。近年の大うつ病性障害を対象とした臨床開発は,全疾患領域の中でも特に活発で,医薬品開発を取り巻く環境は絶えず大きく変化しており,欧米ではグルタミン酸関連や神経ペプチド類等のモノアミン仮説を超える化合物の臨床開発が既に行われている。
 今回は,今後の臨床試験での評価方法ならびに日常診療での治療戦略を検討する際の参考とするためにも,大うつ病性障害の治療薬候補の化合物と開発状況について調査したので報告する。
(中林哲夫)

▲うつ病研究における海外の動向
抗うつ薬による性機能障害
 セロトニンには性機能を抑制する作用がある。従って,セロトニン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬は性機能障害を惹起しやすい。特にsertralineとparoxetineでは70%以上の患者で性機能が損なわれると報告されている。Duloxetine,escitalopramでは40%前後,mirtazapineでは25%程度に性機能障害が出現する。性機能障害の検出率は評価方法に大きく依存し,評価尺度を用いない問診だけの場合は感度が低くなる。性機能障害を正確に評価するための質問紙には,Psychotropic-Related Sexual Dysfunction Questionnaire(PRSexDQ)などがある。
(榎本慎吾・吉野相英)

▲うつ病研究における国内の動向
前頭前野とうつ病の病態
 脳機能画像を利用した研究は,うつ病の病態生理に関連した脳部位として,背外側前頭前野,前部帯状回,梁下野,前頭葉眼窩野,海馬,扁桃体などの異常を明らかにした。特に前頭前野領域では,背外側前頭前野の代謝や脳血流の減少,梁下野,前頭葉眼窩野などの腹内側前頭前野の代謝や脳血流の増加が報告されている。前頭前野を標的とした経頭蓋磁気刺激によるうつ病の治療には,左前頭前野への高頻度刺激と右前頭前野への低頻度刺激の2つの方法があり,どちらもうつ病の治療に有効であることが知られている。前者は,うつ病患者に見られる背外側前頭前野の低活動性に亢進的に作用し,後者は腹内側前頭前野の過活動性に抑制的に作用することで,うつ症状を改善させると考えられている。
(鬼頭伸輔)

▲うつ病研究の現状紹介
光トポグラフィーによるうつ病診断補助の現状
 近赤外線光トポグラフィー(near-infrared spectroscopy:NIRS)は計測に近赤外光を用いており,その結果非侵襲性,低拘束性といった点で他の脳機能画像検査と異なる特徴をもつ。精神科診断とNIRS波形パターンの一致率は,うつ病で69%,躁うつ病で81%となっており,診断補助ツールとしての有用性が示されている。日本人を中心とした研究結果や診断との一致率など,診断補助としての有用性が評価され,2009年4月に先進医療として承認された。実際の臨床においても,診断補助ツールとしての有用性だけでなく,患者と共有できる客観的な情報があることは大きなメリットである。
(野田隆政)

▲Depression Café 5
うつ病の未熟化
 ここ数十年,うつ病の臨床が混乱している。その一因は,DSM- IV (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders- IV )などの操作的診断基準の普及に伴い,心理的レベルの抑うつと身体的レベルのうつ病が診断上あまり区別されなくなったことにある。
 一昔前であれば,環境調整や精神療法が優先された抑うつも,今日では「うつ病」として,SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を始めとした新規抗うつ薬の投与対象である。
 また,この問題とは別にうつ病の診断・治療を困難にしているのは,躁的な成分を孕んだ病態,すなわち,軽微な双極性障害の位置づけを巡る議論である。(抜粋)
(阿部隆明)





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