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CLINICAL CALCIUM 2018年1月号(Vol.28 No.1)

p7(7)~p8(8)


特 集 運動器-エネルギー代謝連関 Preface


巻頭言 ~運動器系とエネルギー代謝系の連関制御と破綻メカニズムに迫る!~

山内 敏正
Toshimasa Yamauchi

東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 准教授


 適切な運動は,筋骨格系を構成する骨の強度を高めたり,骨格筋の持久力や筋力を高めたりするだけでなく,糖・脂質・エネルギー代謝をはじめ,脳神経系機能や炎症・免疫制御機能,性腺機能など生体の様々な生命システムを制御し,抗老化作用まで発揮することを,我々は経験的に理解している。実際,老化とも関連する骨粗鬆症やサルコペニアなどの運動器疾患と,肥満症や糖尿病をはじめとする糖・脂質・エネルギー代謝異常は,密接に連関している。そして,運動器から分泌される分子が,糖・脂質・エネルギー代謝や脳機能,免疫機能や性腺機能に関与する一方,これらシステムの破綻・異常が,逆に運動機能に影響を与える両方向的な関係が見出されている。これまで,これらの研究領域は,個別な医学体系として発展しており,生体の恒常性の制御機構としての俯瞰的な理解は,いまだ十分とは言い難い。従って,超高齢社会の我が国において,運動器系とエネルギー代謝系の統合的な連関システムに主軸をおき考えることは,生命現象を理解するだけでなく,本領域研究のさらなる発展と健康寿命の増進において,大きな意味を持つと考えられるため,特集として取り上げた。「運動器-エネルギー代謝連関」に関して,それぞれの内容を正確に,そして最新の情報までをアップデートした形での御執筆をお願いさせて頂いたところ,それぞれの分野の専門の各先生方が御快諾して御執筆してくださいました。

 骨が生体の支持などの本来の役割のみならず,リン代謝を制御するFGF(fibroblast growth factor)23,糖・エネルギー代謝に関与するオステオカルシンなどのホルモンを分泌する内分泌臓器として近年,注目されるようになっています。これらに加えて新たな骨産生ホルモンの研究が進み,多臓器ネットワークの解明が進んでいく期待に関しまして,FGF23をはじめ,この分野で世界を牽引しておられます徳島大学の松本俊夫先生,福本誠二先生のグループの先生方が「骨産生ホルモンと全身性の制御」と題して,御執筆してくださいました。老化に伴う骨粗鬆症,サルコペニア肥満,インスリン抵抗性,脳神経系の老化などの連関に関しまして,この分野の第一人者でいらっしゃいます東京大学の秋下雅弘先生のグループの先生方が「老化に伴う運動器とエネルギー代謝の変動」と題して,御執筆してくださいました。
 「筋骨格系とエネルギー代謝」の連関と,変形性膝関節症(OA)とサルコペニア,関節リウマチ(RA)と全身性代謝疾患なども含めました「関節疾患とエネルギー代謝」に関しましては,それぞれ世界の第一人者でいらっしゃいます,国立精神・神経医療研究センター神経研究所所長の武田伸一先生と,東京大学の田中栄先生のグループの先生方が,御執筆してくださいました。近年,エネルギー摂取の多寡に伴って生じる不健康・健康の表現型が,アセチルCoA(コエンザイム)やNAD(酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)といった体内で変動する代謝産物によるHAT/HDAC(内在性ヒストンアセチルトランスフェラーゼ/ヒストンデアセチラーゼ)といったエピジェネティック制御分子の調節によっても説明されることが明らかとなり,注目されています。運動によっても増加するケトン体がクラスⅠのHDACを制御して,酸化ストレス耐性などの運動効果の少なくとも一部を伝達していることを,理化学研究所の島津忠広先生が「ケトン体(運動)による臓器保護」と題して,御執筆してくださいました。
 AMPKがエネルギーセンサーとして,食欲などの中枢神経系も制御することに関しまして,岡崎生理学研究所の箕越靖彦先生が御執筆してくださいました。運動が認知症予防に有用であることが明らかになってきています。全身運動や咀嚼が,直接・間接に,如何にして脳機能を高めるかに関しての極めて興味深い分子メカニズムを,東京医科歯科大学の中島友紀先生のグループの先生方が御執筆してくださいました。哺乳類の体温調節行動は,快適な温度環境を選ぶ快・不快情動が基盤になるという大変興味深いお話を名古屋大学の中村和弘先生が紹介してくださいました。先制医療の実現に向けた運動模倣薬の開発に関しては,東京大学の岩部真人先生らが,解説してくださいました。
 超高齢社会の日本においては,メタボリックシンドローム,肥満症のみならず,サルコペニアの問題が年々大きく,重要になってきている。サルコペニアは筋量の減少によって,全身の糖の取り込み低下に直結するのみならず,基礎代謝の低下をもたらし,所謂サルコペニア肥満の状態を作り出し,インスリン抵抗性がさらに増悪するという悪循環を形成してしまうので,診断と予防・治療が極めて重要である。予防・治療には,食事療法として,摂取総タンパク質量や総カロリーに関して,メタボリックシンドロームや肥満症単独の場合とは異なり,必要量を十分に摂取する工夫が重要で,運動療法もレジスタンス運動を併用することが重要である。東京大学の小川純人先生が,これからの日本において最も重要な「サルコペニアとエネルギー代謝」に関して,解説してくださいました。RANKL(receptor activator of nuclear factor-κB ligand)が肝でインスリン抵抗性を惹起する可能性や,ビスホスホネートの長期投与が2型糖尿病の新規発症を抑える可能性といった重要な知見に関しまして,「骨粗鬆症治療薬とエネルギー代謝」と題して,虎の門病院の竹内靖博先生が解説してくださいました。生活習慣病に男性より女性が,よりなり難いことからエストロゲンに良い作用がある可能性が考えられてきましたが,エストロゲンがER(エストロゲン受容体)αを介した様々な機序によって代謝改善作用などを示すことを「女性ホルモンとエネルギー代謝」と題して,この分野の世界の第一人者でいらっしゃいます東京大学の大須賀穣先生のグループの先生方が御執筆してくださいました。

 本誌をきっかけに「運動器-エネルギー代謝連関」に関して最新の情報をアップデートし,運動器系とエネルギー代謝系の連関制御と破綻メカニズムに迫っていただいて,それぞれの研究・診療に活かして頂ければ幸いです。





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