トップページ雑誌案内(オンラインメドジャーナル)新刊一覧(年月別)近刊案内好評既刊書好評シリーズ書図書目録ヘルプ

化学療法の領域 2018年2月号(Vol.34 No.2)

p35(213)


巻頭言


抗菌薬の値段は安すぎる

前﨑 繁文

埼玉医科大学感染症科・感染制御科 教授 Shigefumi Maesaki


 わが国には世界に誇るべき社会保障制度である国民皆保険がある。この制度によって国民は大きな恩恵を受け,その結果,日本人の平均寿命は世界中でもっとも長く,国民の健康が守られている。しかし,この優れた社会保障制度を維持するためには国民すべてが負担を背負わなくてはならない。なぜならば,その財源は国民の保険料や消費税をはじめとする多くの税金に頼っているからである。さらに,今後ますます進む高齢化や医療技術の進歩などにともなって,社会保障に費やす医療費はますます膨らむことが予想され,その財源の確保とともに効率的な医療費の使い方が大きな議論となっている。
 その中で近年特に問題となっているのが高額な医薬品による薬剤費の高騰である。なかでも抗がん剤や生物学的製剤などの新薬はこれまでの常識では考えられないほど高額である。そのひとつである抗がん剤の「オプジーボ®」は患者1人分の1カ月の薬剤費が300万円以上となり,薬剤費の膨張による「亡国論」が声高に語られた。そのため政府は「オプジーボ®」の値段を半額とする緊急値下げを打ち出した。これは,昨日まで1,000円で販売していたお弁当を今日から500円で販売するようなもので,きわめて乱暴な措置である。当然,弁当屋は倒産しそうであるが,そこにはからくりがあり,この種の抗がん剤は多くのがん腫に効果が期待されるため,発売後にさまざまながん腫に適応を拡大している。つまり,500円のお弁当でも売り上げ個数が倍になれば十分儲けがあるということになる。
 このように,社会保障の財源を圧迫する高額な薬剤の登場によって,政府は「薬価制度の抜本的改革に向けた基本方針」を決定した。その中に費用対効果の高い医薬品の評価という項目がある。抗菌薬,特に注射用抗菌薬はこれまでどちらかというと高額な薬剤と思われてきた。そのため後発品への変更対象とされてきた。しかし,現在の高額な医薬品に比べれば,むしろ安価な薬剤となってしまった。さらに,先にあげた高額な抗がん剤は,患者の「無増悪期間」の延長は確認できるが,「生命予後」の延長には寄与しないとの臨床研究も多い。それに比べて抗菌薬は,たとえば肺炎における有効率は90%以上である薬剤も多く,費用対効果においては抗がん剤をはるかに上回る。もちろん,がん患者やその家族には無増悪期間延長も大きな治療効果と思われるが,果たしてそれほどの薬剤費が必要なものであろうか。そのことを考えると抗菌薬の費用対効果はあまりにも低く見られている気がしてならない。製薬企業は営利企業で,利益を追求するためには,いかに高額な医薬品を開発し,販売することに力を注ぐであろう。
 近年,抗菌薬の開発がきわめて停滞しているのは,他の薬剤と比較して抗菌薬の薬剤費が安すぎることも一因であろう。優れた費用対効果のある抗菌薬の薬剤費こそ見直され,適正な価格とすることが,今後の抗菌薬の開発にもっとも必要なことではないかと考える。





▲このページの上へ