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化学療法の領域 2018年3月号(Vol.34 No.3)

p23(379)


巻頭言


感染症診療とAI(artificial intelligence)

光武 耕太郎

(埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染制御科 教授 Kotaro Mitsutake)


 40年以上も前に“マイシン”という感染症支援システムがあったことをご存知だろうか。血液疾患における感染症に対して抗菌薬を推奨するもので,1970年代にスタンフォード大学で開発された人工知能の走りである。
 総務省の調査で,国民がAI(artificial intelligence)に期待する項目の上位にバスやタクシーの自動運転と並んで,病気の予防・診断など疾病に関するものがある。実はAIはすでに生活に入ってきている。車や電車,ヒトの流れを制御し,交通渋滞を解消,自動運転車は量産化され,金融・法務での活用は日常化し,新規薬剤の発見と研究・開発に不可欠となっている。企業の人事評価をAIがすれば文句が出ず,料理のレシピを考案,合コンではカップルになれそうな相手を探してくれる。
 AIと医師の能力比較では,2016年のJAMA Internal Medicineに問診による診断確率はまだ医師のほうが優位であるとする論文が載り,安堵した内科医も多かった。しかしながらAIのデータ処理と解析能力に,到底,ヒトは及ばない。がん治療支援で有名なIBMのワトソンはビッグデータを集積かつ解析可能で,1秒間に8億ページを読み込み,4千を超える医学論文を1秒で理解する。
 さて,当院でも患者受付で簡単な説明とやり取りができるロボットが活躍中(?)である。AIを備えたロボットは会話を分析し(過去の会話内容も覚えている),すでに簡単な問診はこなせる。将来を予測してみる。環境整備は必要だが適当なセンサーがあれば診察時の所見を一瞬で処理する。病歴や診察所見・各種検査・画像データから診断名をまたたく間に列挙する。動画を含む画像診断技術と言語・音声認識の機能が向上すればAIの役割は増す。ICUでは患者データを間断なくモニター・解析し,異常検知の得意なAIが患者安全に寄与する。感染症診療は,敗血症予測や早期診断の確率も改善,抗菌薬はAIの選択が優先される(腎機能や併用薬剤の相互作用,アレルギーを考慮し,安全で効果的な用法用量を提示,de-escalationもスムーズ)。外来診療は,ヒト(医師)のみ,ヒト+AI,AIのみ?を患者が選択可能になるかもしれない。ウイルス性の上気道炎に抗菌薬が不要と説明するときもAIの判断を理由にできる。薬剤耐性(AMR)対策の強力な推進ツールになる可能性が高い。
 さて,冒頭のマイシンは感染症専門医には及ばないものの,一般の医師より成績はよかった。一般化しなかった理由は「誤診」の責任を誰が負うかという倫理問題であった。
 コンピュータのマイクロプロセッサのトランジスタ数がヒトの大脳の神経細胞数に並ぶのは2018年と予想されている。AIがこの勢いで進歩すれば数年後にはさらに診療に入り込んでいるだろうし,AIが欠かせなくなり,10年後はロボットが診察室にいるのが普通になっているかもしれない。10年後? いや,そういえば囲碁の世界でAIがヒトを超えるのに10年はかかると言われていたことを思い出す。





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