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医薬ジャーナル 2018年6月号(Vol.54 No.6)

p50(1386)~p59(1395)


▲メディカルトレンド・姉妹誌から


アレルギー・免疫(Vol.25 No.6) 特集・血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
CLINICAL CALCIUM(Vol.28 No.6) 特集・軟骨研究と変形性関節症
血液フロンティア(Vol.28 No.6) 特集・白血病幹細胞
吸入療法(2018 Vol.10 No.1) 特集・進化したpMDI製剤の意義と見えてきたフルティフォーム®の真価

アレルギー・免疫(Vol.25 No.6)
《特集・血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-》

〔企画・旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座教授 原渕保明〕




▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 序 ~歴史の転換期を迎えたアジュバントの概念~
 21世紀に入って急速に進んだ自然免疫学の成果により,アジュバントの作用機序が徐々に明らかになってきた。特に病原体だけではなく,組織損傷などで細胞から放出される内在性分子にも自然免疫を活性化する作用があることがわかり,アジュバントに内因性と外因性という概念が定着しつつある。本特集では,内因性・外因性アジュバントの関連性が注目されているアレルギー疾患,自己免疫・自己炎症性疾患,神経系疾患,さらに新たなアジュバントによるワクチン療法のトッピックスを解説する。
(原渕保明)

▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 I.微細粒子によるIL-1誘導とアレルギー性炎症
 近年,大気中に存在する微細粒子による健康被害が懸念されている。これらの微細粒子は,吸入により肺の深部に到達し,アレルギーをはじめとする慢性炎症を引き起こすと考えられている。アレルギー性疾患は過剰な免疫応答が引き起こす疾患であるが,吸入された微細粒子がどのような機序で免疫応答を惹起して,アレルギー性炎症を誘導するのかについては不明な点が多く残されている。最近になり,微細粒子が様々な免疫学的機序で炎症性サイトカインであるIL(interleukin)-1を誘導し,肺の炎症反応を惹起するということが明らかになってきている。
(黒田悦史・小張真吾・日下部峻斗・石井 健)

▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 II.癌ワクチン療法における免疫アジュバント
 腫瘍関連抗原が1990年代に同定されて以来,癌ワクチン療法の研究が急速に進んだが,多くの臨床試験において抗原蛋白やペプチドのみを投与しても期待される程の効果は得られなかった。ワクチンによる腫瘍特異的T細胞の誘導には免疫応答を活性化するアジュバントの使用が重要であり,副作用が少なく抗腫瘍免疫応答を増強するアジュバント開発を目指して多くの研究が行われている。本稿では,ペプチドワクチンにおける免疫アジュバントの併用に関して,Toll様受容体リガンドを中心に概説する。
(長門利純・熊井琢美・大栗敬幸・小林博也・原渕保明)

▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 III.内因性アジュバントと自己免疫疾患
 感染症を予防するために使用されるワクチンには,標的となる抗原のみならず,投与する抗原特異的免疫応答を増強するアジュバントが加えられている。現在のところ,ワクチンに含まれるアジュバントが自己免疫応答を惹起するという確証はないが,病原体感染が自己免疫疾患の発症機序に関与しているとの報告が多い。病原体に感染すると,様々な組織の炎症や,内因性アジュバントとなりうるサイトカインや細胞内構成タンパク質が放出され,慢性的に組織や細胞を破壊することが自己の組織を傷害する機構に大きく関与していることが示唆される。本稿では病原体感染による内因性アジュバントと自己免疫疾患との関連性について概略した。
(飯島則文・石井 健)

▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 IV.黄色ブドウ球菌外毒素による好酸球性副鼻腔炎の病態制御機構
 好酸球性副鼻腔炎の病態は解明されていないが,黄色ブドウ球菌および黄色ブドウ球菌が産生する外毒素の関与が示唆されている。エンテロトキシンやα毒素などの外毒素は鼻茸細胞からの2型サイトカイン産生を誘導する。エンテロトキシンはスーパー抗原活性を有するが,2型サイトカイン産生についてはスーパー抗原としての働きは否定的であり,ICAM-1(intercellular adhesion molecule-1)を介した免疫応答と思われた。一方,外毒素の曝露で誘導されるIL(interleukin)-10やIL-22の産生不全が好酸球性炎症の増悪に関与する。
(岡野光博)

▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 V.ゲートウェイ反射 -神経系による部位特異的な血管の変容と病態誘導機構-
 中枢神経系(CNS)の血管には,特別な構造,血液脳関門が存在し,免疫細胞や高分子の侵入を制限してCNSの恒常性を維持している。しかし,CNSにも少数であるが免疫細胞が存在している。これら免疫細胞が特異的な侵入口(ゲート)を介してCNSに侵入するのか否かは最近まで明らかではなかった。我々は,多発性硬化症のマウスモデルを用いて,血液脳関門に特異的ゲートがあることを証明し,その形成機構を「ゲートウェイ反射」として報告している。また,その分子基盤として血管内皮細胞におけるケモカイン大量発現機構「炎症回路」を明らかにした。これらの研究から,神経伝達物質は血管に対して内因性のアジュバント的な効果があり,血管の状態を変えて臓器特異的な炎症性疾患を誘導することが分かった。本稿では,主にゲートウェイ反射の観点から神経-免疫相互作用とCNS病態に関して議論する。
(上村大輔・村上正晃)

▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 VI.HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)とautoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants(ASIA)
 HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種後に多彩な症状を呈する副反応症例の解析により,症候学的に,① 生命機能,② 高次脳機能・辺縁系,③ 感覚機能,④ 運動機能の4つの機能の恒常性の破綻が推定され,HPVワクチンのL1抗原とアジュバントによる視床下部・脳室周囲器官の病変が原因と推定された。一方,ASIA(Autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants)症候群は,アルミニウム塩,シリコンのアジュバント作用に由来し,自己免疫疾患はアジュバントによる慢性刺激が原因であると推定された。いずれも症候を詳細に検討する余地が残されており,今後,一般的症候との差異を明らかにする必要がある。
(横田俊平・黒岩義之・大西孝宏・中島利博・中村郁朗・西岡久寿樹)

▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 VII.Autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants(ASIA)と慢性上咽頭炎
 アジュバント誘発自己免疫症候群(Autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants:ASIA)は,器質的疾患が明らかでない頭痛,慢性疲労,自律神経障害,全身性疼痛などを呈する機能性身体症候群(FSS)の原因に踏み込んだ新しい概念である。ASIAにおけるアジュバント物質は自然免疫の活性化物質を広く包括しており,ワクチンのみでなくシリコン症におけるシリコンなどの異物,さらにはシックハウス症候群における室内空気汚染の原因となる有機溶剤や揮発性有機化合物など多岐にわたる。上咽頭は活性化リンパ球が豊富な部位で,吸入した空気が通る免疫学的関所であると同時に,アジュバント物質の影響を受けやすい部位である。そして,同部位の病的な慢性炎症は免疫系のみならず上咽頭の解剖生理学的特性から神経内分泌系に障害をもたらす。FSSにおける慢性上咽頭炎の関与についてはこれまで注目されなかったが,ASIAの概念に慢性上咽頭炎という新しい視点を加えることで,FSSの病態に関する新しい地平が見えてくる。
(堀田 修)

▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 VIII.Tonsil induced autoimmune/inflammatory syndrome(TIAS)としてのIgA腎症
 糖鎖異常Ig(immunoglobulin)A1および糖鎖異常特異的抗体の産生亢進により,高分子の免疫複合体が形成されることがIgA腎症の病態に深く関与している。一部の糖鎖異常は扁桃由来であると考えられ,扁桃摘出により血中糖鎖異常や免疫複合体が低下する。扁桃を主とする粘膜面での細菌やウイルス抗原刺激により,TLR(Toll-like receptor)9活性化を伴う粘膜免疫応答異常や,APRIL(a proliferation-inducing ligand)・BAFF(B cell activating factor belonging to the tumor necrosis factor family)による糖鎖異常産生細胞の制御異常に関連していると示唆される。
(鈴木 仁・鈴木祐介)

▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 IX.Tonsil induced autoimmune/inflammatory syndrome(TIAS)としてのIgA血管炎
 ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(= IgA〔immunogloblin A〕血管炎),紫斑病性腎炎,IgA腎症は,糖鎖不全IgA1の過剰産生を特徴とする血管炎である。鼻咽頭関連リンパ組織(ワルダイエル輪)におけるIgAを介する粘膜免疫応答異常が関与し,小児においては治療の一環として行われる口蓋扁桃摘出術± アデノイド切除術が早期根治をもたらす。粘膜免疫応答は,捕捉した病原微生物や有害な自己組織が持つ特定の構造を樹状細胞が認識することにより始まる自然免疫応答と,樹状細胞に提示された抗原情報に基づきT細胞の活性化やB細胞の抗体産生へとひきつがれる適応免疫応答により成る。本稿では,小児IgA血管炎患者の背景にある鼻/副鼻腔・口腔・咽頭の感染症を示し,病原微生物の影響下に置かれた鼻咽頭関連リンパ組織の樹状細胞が,微生物DNAや炎症性サイトカインをアジュバントとしてIgA粘膜免疫応答異常をもたらした可能性について考察する。
(永野千代子)

▲血管炎とアレルギー疾患 -内因性・外因性アジュバントの関わり-
 X.Tonsil induced autoimmune/inflammatory syndrome(TIAS)としての掌蹠膿疱症
 掌蹠膿疱症(palmoplantar pustulosis:PPP)は掌蹠に繰り返す無菌性膿疱を主徴とする慢性炎症性皮膚疾患である。疫学的に,女性,喫煙者,扁桃炎などの病巣感染を伴う例が多いといった特徴がある。種々の治療法のなかでも口蓋扁桃摘出術の有効性は高い。患者扁桃リンパ球,血清,病変部皮膚などを用いた基礎的・臨床的研究から,PPP扁桃では口腔内常在菌に対する免疫寛容が破綻しているために,過剰な免疫応答や自己免疫反応が誘導されることが明らかになっている。PPP病態形成において,扁桃病巣感染は重要な役割を担っている。
(岸部麻里)


CLINICAL CALCIUM(Vol.28 No.6)
《特集・軟骨研究と変形性関節症》

〔企画・東京大学大学院医学系研究科整形外科学 准教授 齋藤 琢〕




▲軟骨研究と変形性関節症:Preface
 巻頭言
 ~特集「軟骨研究と変形性関節症」にあたって~

 近年の少子化によって日本は未曾有の高齢社会になりつつあります。医学・医療の進歩も目覚ましく,確実に人口が減少するなか,高齢者が元気に活動することが強く期待されており,そのためには高齢者の運動機能の維持が不可欠です。骨粗鬆症と変形性関節症は高齢者の運動機能を低下させる二大変性疾患ですが,骨粗鬆症については長年の骨代謝研究の成果によって新薬が次々と登場し,適切に評価・予防・治療しうる疾患になりました。一方,変形性関節症は骨粗鬆症と比べると病態解明が遅れており,病態を制御しうる治療薬はいまだ登場していません。
 骨代謝研究が順調に発展してきたことには多くの理由があるでしょうが,軟骨研究と比較して考えると,基礎分野のみならず内科,整形外科,歯科など多くの臨床分野の研究者が骨代謝研究に参加してきたこと,実験動物と人間との間で共通した現象が多かったこと,骨の組織において骨代謝を直接制御する細胞の種類が限られていたことなどが挙げられるでしょう。関節は軟骨だけで出来ているわけではなく,軟骨下骨や靭帯,滑膜,半月板など多彩な要素から構成されていることも研究を複雑にしています。発症や進行が極めて緩徐であることから,疫学調査には長い年月を要しますし,治験を行う場合にも長い期間を要するでしょう。変形性関節症の主たる愁訴は痛みですが,痛みの原因も複雑で,まだ不明な点も多く残されています。実験動物を用いて研究を行うにも,二足歩行の人間と四足歩行の動物では異なる点も多いのではないかと危惧されますし,実験動物の関節の痛みを定量評価するのも一筋縄ではいきません。
(齋藤 琢)

▲軟骨研究と変形性関節症:Review
 変形性膝関節症の診断・治療の現状と今後の展望
 変形性膝関節症(膝OA)では,関節軟骨に加え軟骨下骨や半月板などにも変化をきたし,膝痛や移動機能障害により日常生活動作が低下する。診断は単純X線にて行うが,病態と臨床症状の関連性が低いという問題がある。治療は疼痛を主とした症状改善を目的とする。保存療法を原則とし,非薬物療法と薬物療法を併用するが,無効の場合外科的治療が選択される。本邦には約2,500万人の罹患者数が推定され,より有効な対策の確立に向け単純X線に加えMRIやバイオマーカー等を駆使し,膝OAの病態のより詳細な病態解析が進んでいる。近年,膝OAの重症度により疼痛と関連する病態が異なることが示され,今後は膝OA早期の病態解明が期待される。
(石島旨章・金子晴香・岡田保典・金子和夫)

▲軟骨研究と変形性関節症:Review
 変形性関節症の疫学
 地域住民コホートのX線調査結果を用いて,膝,腰椎,股関節,手の変形性関節症(OA)の有病率について検討したところ,変形性膝関節症の有病率は54.6%(男性42.0%,女性61.5%),変形性腰椎症70.2%(男性80.6%,女性64.6%),変形性股関節症15.7%(男性18.2%,女性14.3%),手の変形性関節症の有病率は91.5%(男性89.9%,女性92.3%)であった。膝,腰椎,股関節のすべてにOA変化をみとめるものも全体の7.2%に認められた。OAと年齢,性別,体格との関連についても検討した。
(吉村典子)

▲軟骨研究と変形性関節症:Review
 海外の変形性関節症の疫学研究の枠組みと成果
 海外では変形性関節症(OA)に関する地域住民に基づいた(population-based)疫学研究が行われ,リスク因子などが検討されてきた。またOA患者や発症リスクの高い人を集めた前向き研究が行われており,特に大規模なのが米国のOsteoarthritis Initiative(OAI)である。OAIは膝OAの生化学的,遺伝的,画像的バイオマーカーを検討することを目的とし,45~ 79歳の男女4,796人の参加者を2004年より追跡している。収集しているのは膝の症状や健康状態全般,使用薬剤,診察所見や身体機能テストデータ,膝関節レントゲン,MRI画像,生物検体などである。画像はあらゆる方法で読影されており,これらは公開されている。日本人研究者もこのようなリソースを使って研究を行うことが可能である。
(藤井朋子)

▲軟骨研究と変形性関節症:Seminar
 3次元動態解析手法を用いた変形性膝関節症へのアプローチ
 変形性膝関節症は患者数が1,000万人ともいわれる疾患である。その病態は依然不明であり,様々な方面から検討が加えられている。一方で治療方法に関して人工膝関節手術はその代表的治療である。それは失われた膝関節機能を可能な限り回復させることを目的としている。しかし術後の膝関節はどのように機能しているのか,また人工関節の理想のデザインはどのようなものかなどは十分には明らかにされていない。この本の中で照会されている分子生物学と全く異なるアプローチの最新の3次元動態解析の手法で,驚くべきことにこれらの問題点を解明できる可能性が示唆されるようになったが,本稿ではその成果の一端をご紹介したい。
(菅本一臣)

▲軟骨研究と変形性関節症:Seminar
 変形性関節症の病態形成におけるmicroRNAと細胞外小胞の役割
 RNAは容易に分解されることが知られているが,細胞外小胞に内包されることで体液中を循環し,機能することが明らかになってきた。本稿では,軟骨細胞内で発現するノンコードRNAであるmicroRNAと新たな細胞間コミュニケーション因子としてのmicroRNAを含む細胞外小胞に焦点を当て,変形性関節症の分子メカニズムへの関与とその可能性について最近の知見を紹介する。
(味八木 茂)

▲軟骨研究と変形性関節症:Seminar
 メカノバイオロジーからみた変形性関節症
 運動刺激は軟骨細胞活動性・関節軟骨代謝を制御する最も重要な細胞外因子の一つで,過剰な非生理的運動刺激は病的メカノトランスダクションを介して変形性関節症を引き起こす。一方,適度な運動は疼痛軽減や関節機能回復,軟骨マトリックス分解酵素の発現低下などの有益な結果をもたらす。カルシウムシグナルはメカノトランスダクションの最初のステップで,近年の研究では,生理的運動刺激と過剰な非生理的運動刺激は異なる二つのカルシウムイオンチャネル(TRPV4とPiezo ion channels)を介していることが報告されている。本稿では,軟骨代謝・メカノトランスダクションに重要なカルシウムイオンチャネルについて概説する。
(小川寛恭・秋山治彦)

▲軟骨研究と変形性関節症:Topics
 関節軟骨の定量的評価法の開発
 変形性関節症は,関節軟骨の変性を主体とする疾患であり,評価の手段としてMRI画像を用いた非侵襲的な軟骨定量化が試みられているものの,その評価には工夫が必要であり,多くの機関においては実臨床にて使用されるには至っていない。本稿では軟骨定量評価用のMRI撮像法のポイントと,関節軟骨を可視化する「MRIを用いた軟骨定量評価ソフトウエア」に関して概説するとともに,その臨床での利用について紹介する。
(岡 敬之)

▲軟骨研究と変形性関節症:Topics
 iPS細胞由来軟骨組織を用いた関節軟骨再生
 関節軟骨損傷の再生治療において,損傷部に移植する細胞や組織の供給が不足している。我々は,ヒトiPS細胞から軟骨細胞を分化誘導し,さらにその細胞に軟骨細胞外マトリックスを作らせて軟骨組織を作る方法を開発した。軟骨組織移植の修復機序は,移植物が修復軟骨を構成することを目指す。ヒトiPS細胞由来軟骨は生体軟骨と同様に免疫原性が低く,同種移植を行える可能性がある。有効性と安全性を評価する非臨床試験を行った後に臨床試験へと進み,実用化を目指したい。
(妻木範行)

▲軟骨研究と変形性関節症:Topics
 靭帯再生医療の現状と展望
 関節において靭帯は,骨と骨を連結し適度な可動性と安定性を維持しており,靭帯は関節の機能・恒常性の維持にとって重要な役割をもっていることが分かる。しかし靭帯は加齢,外傷,炎症など様々な原因で損傷を受けることでその機能が減弱し,変形性関節症といった種々の疾患を引き起こし,結果,我々の生活の質は大きく低下する。我々はこの組織の再生を目指す上で,これまで発生学の視点から研究を行い,そこで転写因子Mohawk が腱・靭帯の発生や恒常性に重要であることを見出し,その機能を解析してきた。さらに,近年は幹細胞を腱・靭帯細胞へ誘導しI型コラーゲン線維を生成する試みも行っている。本稿では,これまでに報告されている腱・靭帯の発生機構を我々の研究結果と共に概説する。
(中道 亮・片岡健輔・浅原弘嗣)

▲軟骨研究と変形性関節症:Topics
 変形性関節症の新薬開発の動向
 関節軟骨の退行変性を主体とする変形性関節症(OA)の最大の愁訴は疼痛である。そのため,現在の保存療法で用いられる薬剤は,対症療法的に消炎鎮痛を目的とするものが大多数を占めている。一方で,近年の軟骨代謝研究の進展により,関節軟骨基質の代謝を制御する成長因子・サイトカインやその下流で働く転写因子,基質産生・分解酵素が同定され,それら活性を修飾する薬剤の開発が試みられている。これらは,関節症の病態そのものを改善する効果を期待するものである。
 OAの症状と病態の両方に効果を有する薬剤(単剤または組み合わせ)の開発が達成された場合,現在の保存療法,外科的療法に加えて,将来的には内科的療法の確立につながることが期待できる。
(辻 邦和)

▲軟骨研究と変形性関節症:Therapy
 変形性関節症に対する間葉系幹細胞の関節内注射による治療
 間葉系幹細胞は,多分化能のみならず,様々な因子の分泌を通じて抗炎症作用,組織修復促進作用を示すことが報告されており,変形性関節症動物モデルを用いた実験では軟骨変性抑制効果が示されている。これらの知見を基に,変形性関節症に間葉系幹細胞を用いた臨床研究,治験が複数行われており,治療の安全性,症状の改善と軟骨修復を示唆する結果が得られている。
 間葉系幹細胞を用いた治療の今後の産業化においては他家細胞の利用が有利であるが,免疫反応などの課題の克服が必要である。
(疋田温彦)

▲軟骨研究と変形性関節症:Therapy
 変形性膝関節症の外科的治療の最近の話題
 変形性膝関節症に対する外科的治療として人工膝関節手術が普及している。近年は高齢患者,術後の高い活動性を求める患者の増加に対応可能な手術として,人工膝関節単顆置換術(UKA)が脚光を浴びている。ただし,UKAの成功には,UKAのコンセプト,手術適応の理解や適切な手術手技が求めれられる。
 UKAの臨床的な成功から,膝前十字靭帯(ACL)の重要性が見直され,ACL(機能)を温存するコンポーネント等の開発が進んでいる。またナビゲーションやロボット手術などの最新テクノロジーも続々と人工関節分野に導入されている。今後の飛躍的な臨床成績向上が期待される。
(乾 洋)


血液フロンティア(Vol.28 No.6)
《特集・白血病幹細胞》

〔企画・九州大学大学院医学研究院 病態修復内科 准教授 宮本敏浩〕




▲白血病幹細胞
 序 ~造血器腫瘍の多段階発症機構:Killer clonesの覚醒~
 白血病幹細胞の存在が実証されて四半世紀が経過した。その間の技術革新は目覚ましく,新たに登場した次世代シークエンサーによる網羅的遺伝子解析により,連続的に遺伝子変異が獲得または喪失され,その変異クローン群が質的および量的にダイナミックに変化する白血病の進展様式が明らかにされた。さらに健常時から遺伝子変異が多段階で獲得され,クローン性造血を経て,白血病へと進展する過程が明らかにされている。
 造血器腫瘍の個々の多様性・複雑性が示され,白血病幹細胞研究は新たな時代を迎えようとしている。
(宮本敏浩)

▲白血病幹細胞
 1.急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)幹細胞
 白血病細胞の中に幹細胞様の特殊な細胞が存在するという「白血病幹細胞」仮説は,白血病の発症や再発の原因として約20年間に渡って注目を集めてきた。白血病幹細胞という概念が広まるきっかけとなったのは,急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)細胞を免疫不全マウスに移植したJohn Dickらの論文である。以来,AML幹細胞に関する多数の論文が発表され,多くの知見が集積されてきた。本稿ではこれまでのAML幹細胞研究を振り返り,白血病幹細胞とは何か,その本態について考察する。
(合山 進)

▲白血病幹細胞
 2.リンパ系腫瘍幹細胞
 ヒト急性骨髄性白血病幹細胞の存在が免疫不全マウスを用いた実験系により明らかとなった。リンパ系腫瘍幹細胞を同定するために同様の解析が精力的に行われている。
 近年,次世代シーケンス技術を利用し疾患を特徴づける遺伝子変異が次々と解明された。疾患を特徴づける遺伝子変異がどの分画に存在するかなどの報告が相次いでいる。
 一方,シーケンス結果での変異アレル頻度の違いや非腫瘍血液細胞と腫瘍細胞との比較から,異種移植の実験系では証明されていないものの,リンパ系腫瘍における前リンパ腫細胞というべき変異を有する細胞の存在が示唆されている。
(日下部 学・坂田〔柳元〕麻実子)

▲白血病幹細胞
 3.混合性急性白血病(mixed phenotype acute leukemia:MPAL)幹細胞の分子基盤
 混合性急性白血病(mixed phenotype acute leukemia:MPAL)は,分化系統の不明瞭な芽球を呈する稀な急性白血病の一種で,科学的には大変興味深い疾患である。
 稀ではあるが,予後が悪く,診断と治療選択に難渋する臨床的にもチャレンジングな疾患である。
 この稿では,自験例を中心に最近の遺伝子解析技術で明らかになりつつあるMPALの分子的基盤,そこから敷衍されるMPALの幹細胞起源,発生機序について説明する。
(髙橋康一)

▲白血病幹細胞
 4.慢性骨髄性白血病幹細胞
 慢性骨髄性白血病(CML)幹細胞は大量のCML細胞を産生する能力とチロシンキナーゼ阻害剤に対する抵抗性を有しており,治療後も残存するCML幹細胞は再発の原因となる。これまでに遺伝子改変マウスを用いた遺伝学的アプローチにより,生体内でCML幹細胞の未分化性維持に関わる様々な分子機構が報告されている。
 また,近年のメタボローム解析技術の進展によって,CML幹細胞に特異的な糖代謝,脂質酸化,アミノ酸・ペプチド吸収などの栄養・代謝制御メカニズムの研究も進められている。
(仲 一仁)

▲白血病幹細胞
 5.白血病幹細胞の特性と治療応用
 急性骨髄性白血病における白血病幹細胞の純化,同定から20年以上が経過した。この間,種々の新規解析技術の進展にあわせて,白血病幹細胞研究は白血病発症機構の解明のみならず,臨床的予後との関連性,特異的治療標的分子の同定等,非常に幅広い展開をみせている。
 これは,白血病幹細胞モデルを用いた病態理解が,基礎的白血病モデルのみならず,実際のヒト急性骨髄性白血病の理解においても有用であることを示している。これまでの白血病幹細胞研究が何を明らかにし,今後どのような方向に研究が進化し,最終的に臨床的な応用が可能となっていくのかという点を本稿で議論したい。
(菊繁吉謙)

▲白血病幹細胞
 6.白血病幹細胞の免疫細胞治療
 免疫細胞治療は,化学療法抵抗性と考えられる白血病幹細胞に対しても効果が期待できる治療法である。
 これまでに様々な白血病抗原が免疫療法の標的として同定され,様々な臨床試験が行われてきた。近年では遺伝子改変技術の向上に基づき,T細胞を白血病特異的に活性化するT細胞受容体/改変抗体を作製して,白血病に対するT細胞免疫療法の治療効果を高める研究開発も目覚ましく進歩した。
 将来的には,白血病の治癒を目指して,化学療法や分子標的薬と免疫療法とをうまく組み合わせた併用療法を確立していくことが重要であると考えられる。
(越智俊元)

▲白血病幹細胞
 7.患者細胞移植(patient derived xenograft:PDX)モデルを用いた白血病幹細胞研究
 白血病再発の原因として,治療抵抗性の白血病幹細胞(leukemic stem cell:LSC)の概念が提唱されている。高度免疫不全マウスに患者由来のがん細胞を移植し,生体内でヒト腫瘍組織を再構築させる患者細胞異種移植(patient derived xenograft:PDX)モデルは,幹細胞性を保持して増える自己複製能と,非幹細胞分画を生み出す腫瘍再構築能を備えたLSCの証明に不可欠である。優れたPDXモデルの開発に伴い,LSCの特性の解明や標的治療に関する研究が進められ,基礎と臨床の距離は急速に縮まりつつある。
 本稿では,白血病幹細胞研究の根幹をなす,PDXモデルについて概説する。
(名島悠峰・石川文彦)

▲白血病幹細胞
 8.クローン性造血に潜む病的意義:造血器疾患・心血管疾患との関係
 クローン性造血は,健常者でも加齢に伴い増加する現象として認識されるようになった。骨髄性腫瘍にみられるdriver遺伝子の変異を伴うことが多く,続発する造血器腫瘍の発生率が高いことが知られる。
 しかし近年,クローン性造血の存在が血管アテローム性動脈硬化病変や糖尿病に伴う血管病変の増加とも関係し,その結果,全生存率の低下とも相関するということが明らかになってきた。
 TET2 など一部の遺伝子変異はマウスモデルによって血管性病変を誘導することが示され,直接的な因果関係が示された。
(南谷泰仁)


吸入療法(2018 Vol.10 No.1)
《特集・進化したpMDI製剤の意義と見えてきたフルティフォーム®の真価》

〔企画・近畿大学医学部呼吸器・アレルギー内科部門主任教授 東田有智〕




▲巻頭言
 喘息における末梢気道病変
 喘息の定義に「可逆性の気道狭窄と気道過敏性の亢進」があるが,かかる生理学的変化をきたす基本病態は気道の慢性炎症である。
 喘息患者の40~ 60%がコントロール不十分と判断されている。
 その理由として,服薬アドヒアランスの不良や不適切な治療・管理といった要因に加えて,有効性の高い薬剤を吸入していながら粒子の気道への分布が不均一であること,すなわち粒子が末梢気道まで効率よく到達しないために気道炎症が改善しないという可能性が指摘されている。
 したがって,現在の喘息治療においては,末梢気道をターゲットとすることの重要性が認識されており,そのためには吸入薬剤やデバイスのさらなる工夫が求められる。
(玉置 淳)

▲鼎談
 喘息治療とデバイス選択 -新技術FRIによるデバイス評価と臨床的考察-
 ICS(吸入ステロイド薬)/LABA(長時間作用性β2刺激薬)の登場により,喘息死は今や年間約1,500人にまで激減した。
 喘息死は減ったものの,コントロールは未だ不十分であることが報告されている。コントロール不良は,デバイスとアドヒアランスの問題が大きいと考えられる。
 本鼎談では新たなイメージング技術(FRI;functional respiratory imaging,呼吸機能イメージング)による吸入デバイスの評価を行い,検証する。
(東田有智・岩永賢司・長瀬洋之)

▲特集・進化したpMDI製剤の意義と見えてきたフルティフォーム®の真価
 I.ICS/LABAの作用機序と実臨床における意義
 気管支喘息の治療にICS(吸入ステロイド薬)およびLABA(長時間作用性β2刺激薬)は欠かせない薬剤である。ICSおよびLABAを併用することで,ICSによる抗炎症作用とLABAによる気管支拡張作用,さらには各々の相乗効果も合わさり,喘息のコントロールは飛躍的に向上し長期的予後も改善した。近年はICS/LABAの配合剤が導入され,治療はより簡便なものとなっている。
 これにより患者のアドヒアランスも向上し,さらなる病状の改善へとつながっている。
(大田 進・相良博典)

▲特集・進化したpMDI製剤の意義と見えてきたフルティフォーム®の真価
 II.末梢気道病変を考慮した吸入薬の選択
 喘息死の90%以上は高齢者から発生している。高齢者喘息では,末梢気道病変が進行しており,末梢気道病変は喘息症状や増悪と相関する。今回我々は,ドライパウダー型のICS/LABA配合剤でコントロールが不十分な高齢者喘息患者を対象として,フルチカゾン/ホルモテロール配合剤pMDI (FFC)への切り替え効果を検討したところ,MMF等の末梢気道指標の改善が認められ,喘息コントロールやQOLも有意に改善した。
 末梢気道病変が進行し,吸気流量も低下する高齢者喘息において,pMDI製剤は重要な選択肢である。
(長瀬洋之)

▲特集・進化したpMDI製剤の意義と見えてきたフルティフォーム®の真価
 III.Functional Respiratory Imaging (FRI) , a novel imaging technology to accelerate and improve respiratory drug development.
 An increasing number of imaging studies using a range of modalities emphasizes the importance of regional information related to lung structure and function. Functional Respiratory Imaging(FRI)has arisen as one of the imaging tools that shows promise to improve our understanding of lung diseases and subsequently the mode of action of novel drugs. This paper discusses applications of FRI in pre-clinical deposition studies as well as clinical trials in new chemical entities and generic drugs. The studies conclude that FRI has great potential to accelerate and improve respiratory drug development.
(Jan De Backer・Wim Vos)

▲特集・進化したpMDI製剤の意義と見えてきたフルティフォーム®の真価
 IV.デバイス特性と吸入パターンを加味した吸入指導の重要性
 日常臨床で,様々な吸入手技操作の誤操作(ピットホール)を患者自身が気付かないまま生じていることが多い。各デバイス特有の典型的なピットホールを熟知し,デバイス特性を加味した吸入指導が重要である。ピットホール発生の主因は患者側にあり,患者の加齢現象,個性,癖,性格などに起因することが多い。また,より効果的な薬剤吸入を行うには,患者が薬剤吸入する際の吸気パターンと吸入速度も合わせて評価する必要がある。当院では,吸気流速計(試作機)を用い,各デバイスの特性に合った吸入パターンを調整する吸入指導を行っている。今回,フルティフォーム®を3カ月以上使用している喘息患者を対象に,吸気パターンと吸入速度により喘息コントロール状態が異なるのか,吸気流速計を用い検討した。その結果,フルティフォーム®は,患者の吸入パターンと吸入速度に影響を受けにくい吸入薬である可能性が示唆された。
(大林浩幸)

▲吸入療法の新展開
 小児気管支喘息における抗コリン薬の役割
 短時間作用性抗コリン薬は発作コントロール不良例で時に著効を示す。長時間作用性抗コリン薬であるチオトロピウムの小児適応はないが,海外での治験では,成人と同様小児でも長期管理薬としての有用性が認められており,今後小児でも重症例で吸入ステロイドにadd onする薬物として期待される。アセチルコリンは神経分布の少ない末梢気道において非神経性の炎症細胞を活性化しているとの報告があり,抗コリン薬には新たな抗炎症作用が見いだされる可能性がある。
(徳山研一)

▲吸入療法の指導方法
 “吸入療法のステップアップをめざす会”による吸入支援の取り組みについて
 吸入療法を正しく行うためには,医療者による正しい吸入指導が必要である。しかし,デバイスの使用方法を学ぶだけでは吸入療法はなりたたない。「吸入療法のステップアップをめざす会」では多職種で意見を出し合い,患者も医療者も楽しく吸入に取り組むことができるよう,様々な試みを行っている。
(駒瀬裕子)

▲TOPICS
 メガスタディから見たCOPDにおける吸入ステロイドの位置づけ
 従来,COPD患者への吸入ステロイドの適応は重症以上で,増悪頻回症例とされてきた。しかし,こういった適応を支持する臨床研究は長時間作用性気管支拡張薬が臨床応用される以前のものであった。
 近年行われたメガスタディでは,長時間作用性抗コリン薬と長時間作用性β2刺激薬投与下では,吸入ステロイドは必ずしもCOPD増悪を抑制しないという結果であった。COPD患者で喘息合併症例が吸入ステロイドの適応と考えられる。
(一ノ瀬正和)







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