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アレルギー・免疫 2018年7月号(Vol.25 No.7)

p7(867)


巻頭言


私が経験したセレンディピティ


Sano Shigetoshi
佐野 栄紀

高知大学医学部皮膚科教授




 

 我々医学研究者は,通常,過去の積み上げられた知見や理論をもとにして作業仮説を構築している。この手順で得られた結果は既存の常識と連続性が担保され,したがって予定調和的であるため一般には受け入れられやすいものの面白みに欠けるきらいがある。これに対して,ときに常識的な文脈から外れた,いわば偶然の発見に遭遇する瞬間がある。それはセレンディピティとよばれている。自然科学におけるセレンディピティの一例としてはフレミング博士のペニシリン発見がある。筆者も密かにセレンディピティと考えている発見を経験したので紹介する。
 1988年,恩師の濱岡俊之先生の紹介で米国アルバート・アインシュタイン医科大学・Barry R. Bloom博士の下に留学した。ときまさにγδ鎖が発見された時代であった。筆者は,結核菌死菌に反応して増殖するヒトγδT細胞からクローンを多数樹立してmycobacteria抗原の同定を試みようとした。ヒトγδT細胞はVδ1とδ2の2種類のみで,Vδ2はすべてVγ2を有し,αβT細胞に比べてprimitiveで抗原レパートリーが少ない。そこで,同じフロアに留学していた田中義正氏(現・長崎大学)に相談し,この抗原は小分子の糖鎖リン酸化合物ではないかと予想した。すなわち,mycobacteria細胞壁などに含まれる糖鎖リン酸化合物を,原始的なγδT細胞がパターン認識し感染防御を担うと想像したのである。まずは糖鎖リン酸化合物をγδT細胞クローンに反応させた結果,偶然,フルクトース1リン酸(F-1-P)によって激しく反応して増殖したのである。これで話が終わればセレンディピティではない。使用したSigma社F-1-P(純度95%)中の夾雑化合物の可能性もあったためカラムでF-1-Pを100%に精製したが,その過程で抗原性が失われていった。他社のほぼ純度100%のF-1-Pでも活性がないことも分かった。Sigma社にF-1-P生成法を尋ねると,1953年の論文(J Biol Chem 201:645, 1953)を紹介され,それを基にF-1-P有機合成を再現した。答えはmonoethyl phosphate(MEP)であった。MEPはすべてのVδ2陽性γδT細胞を増殖・活性化することが可能であり,正常人末梢血単核球をMEP存在下で培養すると,γδT細胞比率5%から1週間で90%まで爆発的に増殖し,NK様活性も獲得した。このように簡単な低分子nonpeptide抗原でここまで刺激できることは,αβT細胞からすれば常識外れであり非連続的な発見であった。
 その後,筆者は1992年春に帰国せざるを得なくなり,後継を田中氏に任せ,やがて論文に発表した(Proc Natl Acad Sci USA 91:8175, 1994)。氏はその後,これをヒントに結核菌の自然リガンド(一連のピロリン酸)も明らかにし(Nature 375:155, 1995),現在までに,ピロリン酸で増殖活性化させたγδT細胞を利用した臨床研究が行われ,一部の癌で有効例が報告された。
 残念ながらフレミングの功績には到底及ばないが,筆者の発見もいずれ誰かによって大ブレイクされることを夢見ている。セレンディピティの結実には時間が必要である。





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