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医薬ジャーナル 2018年7月号(Vol.54 No.7)

p42(1584)~p49(1591)


▲メディカルトレンド・姉妹誌から


アレルギー・免疫(Vol.25 No.7) 特集・全身から考えるアレルギー性結膜疾患
CLINICAL CALCIUM(Vol.28 No.7) 特集・肥満・やせと骨・カルシウム代謝
血液フロンティア(Vol.28 No.7) 特集・ゲノム編集技術の基礎と応用

アレルギー・免疫(Vol.25 No.7)
《特集・全身から考えるアレルギー性結膜疾患》

〔企画・高知大学医学部眼科学講座教授 福島敦樹〕




▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 序 ~眼アレルギー:診療科横断で学ぶ基礎と臨床の最前線~
 基礎,呼吸器内科,小児科,皮膚科,耳鼻科の先生方の研究室における専門領域の話題を提供していただき,その内容に合致する眼科アレルギーに関する臨床および研究の話題について,アレルギーを専門とする眼科医に執筆いただいた。
 読者の方々には,各領域におけるアレルギーの臨床および研究の現況と,眼科ではどのように研究が展開されているかを理解していただき,眼科医はもとより,眼科を専門としないアレルギー臨床家,研究者の先生方に,眼アレルギーに興味を持っていただければと思う。
(福島敦樹)

▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 I.基 礎
 1.粘膜バリアの破綻によるアレルギー性炎症発症の機序

 眼瞼結膜をはじめとする粘膜組織は,外界からの異物進入に対して物理的なバリアとして働くと同時に,様々な受容体を介して外部からのシグナルを感知する。近年,粘膜上皮由来の“上皮サイトカイン”がアレルギーの発症に深く関与していることが明らかになった。本稿では,粘膜バリアの一例として上下気道に焦点を当て,近年,われわれのグループが同定した新規IL(interleukin)-33のターゲット細胞である記憶型病原性Th2細胞および異所性リンパ組織のバリアにおける役割を紹介する。
(平原 潔・岡野美樹子・中山俊憲)

▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 I.基 礎
 2.アレルギー性結膜炎における基礎研究

 アレルギー疾患を2型免疫反応の一つと捉える考え方が広く認知されてきており,本稿でもまず2型免疫反応について概説する。続いてアレルギー性角結膜炎の病態研究の歴史的背景と研究手法,2型免疫反応としてのアレルギー性結膜炎の病態理解の現状,今後の展開について述べたい。
(松田 彰)

▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 II.呼吸器内科との連携
 1.抗IgE抗体療法を含めて

 呼吸器内科で診療する疾患の中で,眼科と連携していくことが必須なもの,望ましいものがいくつかある。アレルギー疾患はその代表的なものであり,内科で診療する気管支喘息や眼科で診療するアレルギー性結膜炎といった具合に臓器毎に別の病名がついている。病名は異なっていても,病態において特異的IgEが中心的に関与することは共通であり,抗IgE抗体は基本的病態を抑えることで,喘息への効果だけでなくアレルギー性結膜炎への効果も期待できる。喘息には様々な細胞や因子が病態に関わっているが,アレルギー性結膜炎にも深く関わる細胞あるいは因子を標的とする治療戦略を選ぶことで,患者においては複数のアレルギー疾患への効果を期待でき,一方,医師にとっては付加価値をもつ治療と見なすことができる。このような位置づけの薬剤は,今のところステロイド内服と抗IgE抗体などが該当するが,今後増えていくと期待される喘息に対する生物製剤がアレルギー性結膜炎にどれ程の効果を示すのかが注目される。また,内科医において生物製剤を選択する際に,アレルギー性鼻炎,好酸球性副鼻腔炎や好酸球性中耳炎の存在を参考としているが,アレルギー性結膜炎の存在も考慮すべき事項として含めるためには,今後の情報の積極的な発信が期待される。 (山口正雄)

▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 II.呼吸器内科との連携
 2.IgEを中心に考える

 IgE(immunoglobulin E)は結膜濾胞の中の形質細胞によって主に産生されている。本邦では涙液総IgE抗体検査が保険適応になっており臨床応用されている。涙液総IgE値は重症化の指標と考えられ,涙液eotaxinとは疾患との関連が異なっている。IgE値は血清と涙液では異なっており,単に血清から漏出しているわけではない。涙液IgEは特に点眼誘発試験との相関が高く,眼局所の炎症を強く反映すると考えられる。
(内尾英一)

▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 III.小児科との連携
 1.アレルギーマーチから見たアレルギー性結膜疾患

 アレルギー性結膜疾患の発症には自然免疫系と獲得免疫系が関与している。アレルギーマーチの進展における新たな抗原に対するIgE(immunoglobulin E)抗体産生の開始には,アトピー性皮膚炎や気管支喘息における上皮細胞の傷害や活性化によって放出されるサイトカイン(IL〔interleukin〕-33,TSLP〔thymic stromal lymphopoietin〕やIL-25)が,抗原提示細胞を刺激してTh2細胞への分化を誘導することが重要な役割を演じていると推察される。そのため,アレルギー性結膜疾患の発症予防には抗原の回避だけでなく,他のアレルギー疾患(特にアトピー性皮膚炎)の発症予防および適切な治療が重要と考えられる。
(松本健治)

▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 III.小児科との連携
 2.若年性の病気・春季カタルを中心に

 小児に好発するアレルギー性結膜疾患はアレルギー性結膜炎と春季カタルである。小児のアレルギー性結膜疾患を,治療,管理する場合には,患者,保護者および医療スタッフが診療情報を共有して診療を進める患者参画型診療が有用である。患者参画型診療では,客観的な自覚症状の評価,他覚所見スコア,涙液検査などにより重症度や治療効果判定を行いながら,治療に対するアドヒアランスやセルフケアへの意識を向上させる他,診療科間の医療情報の共有にも役立つと考えられる。
(庄司 純)

▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 IV.皮膚科との連携
 1.アトピー性眼瞼炎の治療と対策

 眼瞼はアトピー性皮膚炎の好発部位の一つであり,掻破を繰り返し,治療に難渋する症例もある。悪化因子を検索し,それに対する生活指導を行い,適切なスキンケアと薬物治療を行うことが大切である。またアトピー性眼瞼炎では,アトピー性角結膜炎などの眼疾患を合併し,その瘙痒のために掻破している症例や,掻破を繰り返して白内障や網膜剥離を合併する症例,また眼瞼へのステロイド外用期間が長い場合,眼圧への影響を考慮する必要がある症例があり,アトピー性眼瞼炎の診療を行う際には,眼科と皮膚科が連携をとることが重要である。
(峠岡理沙・加藤則人)

▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 IV.皮膚科との連携
 2.アトピー性角結膜炎を中心に

 アトピー性皮膚炎は,アトピー素因などの体質,環境因子,ストレスなど様々な要因で発症し,眼合併症としてアトピー性角結膜炎(atopic keratoconjunctivitis:AKC)を併発する。また,アレルギー性結膜疾患の重症なタイプである春季カタル(vernal keratoconjunctivitis:VKC)の患者の多くがアトピー性皮膚炎を合併している。AKCやVKCは思春期に悪化し,眼瞼や結膜の炎症のみならず白内障や網膜剥離に至り,重篤な視力障害を残すケースもある。治療の原則はアトピー性皮膚炎の治療であり,眼科と皮膚科との連携が不可欠であると考えられる。
(三村達哉)

▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 V.耳鼻科との連携
 1.アレルギー性鼻炎治療での眼症状改善率について

 アレルギー性鼻炎は,通年性アレルギー性鼻炎,花粉症とも眼症状を伴うことが良く知られている。
 近年の臨床試験においても眼症状を評価した論文は多い。経口抗ヒスタミン薬,鼻噴霧用ステロイド薬,抗IgE(immunoglobulin E)抗体などによるアレルギー性鼻炎の臨床試験では,眼症状の評価は現在注目されているエンドポイントの一つである。特にアレルゲン免疫療法においては,その効果が鼻以上に認められていることはあまり知られていない。
 本稿ではアレルギー性鼻炎治療における副次的評価として行われた眼症状の治療効果について考察する。
(大久保公裕)

▲全身から考えるアレルギー性結膜疾患
 V.耳鼻科との連携
 2.花粉症に対する免疫療法を中心に

 眼科における花粉症(花粉性結膜炎)の現在の治療法は,抗原回避と抗アレルギー薬の点眼である。これらは対症療法に過ぎず,根治を目指した治療ではない。根治の可能性のある治療法として免疫療法があり,花粉症に対する免疫療法の眼症状に対する有効性が証明されている。日本でもスギ花粉症に対する舌下免疫療法が耳鼻科で広く行われ始めたが,現時点では眼科からの処方は非常に少ない。
 近年,抗原を発現させた遺伝子組換え米が開発され,将来この治療米を毎日食事として食べることでアレルギーを根治できる日が来るかもしれない。
(福田 憲)


CLINICAL CALCIUM(Vol.28 No.7)
《特集・肥満・やせと骨・カルシウム代謝》

〔企画・帝京大学ちば総合医療センター第三内科 教授 井上大輔〕




▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Preface
 巻頭言
 ~体重・体組成と骨強度との複雑な関係~

 従来より肥満は骨に対して保護的に作用すると考えられてきた。かつては肥満を伴う2型糖尿病も骨粗鬆症にはならないと信じられていた。しかしこの10~15年間の研究の進歩により,少なくとも2型糖尿病患者は骨密度が高値を示すにもかかわらず骨折率が高いことが確立された。
 一方,「肥満」そのものが非糖尿病者や糖尿病患者の骨代謝にどのような影響を及ぼすかについては未だ不明な点が多い。逆に「やせ」は明らかな骨折リスク因子となる。
 骨は筋肉,脂肪と並ぶ主要な体組成成分である。従って,理由はともかくとして,これら3者が(正常な)線形関係を保っている間は,体重に対して骨組織が占める重量の割合は一定であるのが自然と思われる。
 実際,DXA(dual X-ray absorptiometry)で測定した骨密度はBMI(body mass index)とかなり強く正相関を示すことが知られている。
(井上大輔)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Review
 BMIと骨密度・骨折
 体重が多いこと,BMIが高いことは,骨粗鬆症や骨折に防御的に働くと考えられていた。肥満は大腿骨近位部骨折の防御因子であることは一貫しているが,最近の研究では,骨折部位によっては,肥満は危険因子であることが明らかになってきた。BMIと骨折リスクの関係は複雑で,部位によって異なり,骨密度の調整によって変化する。
 骨折リスク評価ツール(FRAX ®)には,体重,身長は危険因子として入れられているが,肥満者においても将来の骨折予測の有効性は認められている。
(藤原佐枝子)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Review
 メタボリック症候群と骨・カルシウム代謝
 メタボリック症候群が骨・カルシウム代謝異常に関連することが報告されてきている。主な病態である内臓脂肪肥満,インスリン抵抗性が骨代謝異常,骨質劣化に関与する可能性がある。また,メタボリック症候群の構成要素である糖尿病,脂質異常症,高血圧症が骨折リスクに関連することも明らかになってきている。したがって,メタボリック症候群では骨密度低下がなくても骨質劣化が存在する可能性を考慮し,骨折リスクを評価する必要がある。
(金沢一平・杉本利嗣)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Review
 サルコペニアと骨・カルシウム
 サルコペニアはフレイルやロコモティブシンドロームの中核的かつ重要な要素と理解され,転倒・骨折リスクを増加させるだけでなく,ADLやQOL,生命予後にも大きな影響を及ぼすと考えられている。超高齢社会を迎えたわが国では,骨粗鬆症・骨折予防やサルコペニア予防に向けた取り組みを始め早期から対策が重要である。また,サルコペニアと骨粗鬆症との関連性をはじめ,骨と骨格筋との相互連関が次第に明らかになってきている。本稿ではサルコペニアと骨・カルシウム代謝との関連性について概説する。
(小川純人)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Seminar
 脂肪細胞,アディポカインと骨・カルシウム代謝
 1994年のレプチン発見を契機に,脂肪組織が単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく,生理活性をもつアディポカインと呼ばれる種々のホルモンを分泌する内分泌臓器であることが明らかとなった。アディポカインの各組織・臓器への影響について多くの研究が行われ,内臓脂肪蓄積によるアディポカイン調節異常から種々の代謝異常,動脈硬化性疾患を惹起するメタボリックシンドロームという疾患概念も確立された。アディポカインの骨代謝への作用メカニズムも徐々に明らかになってきており,本稿では,レプチン,アディポネクチンの骨代謝への作用を中心に,これまでの知見を概説する。
(坂本竜一・小川佳宏)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Seminar
 筋肉,マイオカインと骨・カルシウム代謝
 骨格筋と骨の相互関連が注目されてきたが,筋はマイオカインを分泌することにより骨代謝に影響を及ぼすことが明らかとなってきた。マイオスタチンは,筋量抑制因子として知られ,Smad2/3のシグナルを介して筋量を減少させるが,骨吸収促進作用により関節リウマチの病態にも関与する。フォリスタチンは,マイオスタチンの作用を阻害することにより,重力変化による筋や骨の調節に関与することが示唆される。代謝改善作用を有するアイリシンは,メカニカルストレスや運動が筋や骨に及ぼす作用に関与する。マイオカインの研究は,サルコペニアと骨粗鬆症の診療に結びつくことが期待される。
(梶 博史)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Seminar
 インスリン・糖代謝と骨・カルシウム代謝
 近年,糖尿病合併症の一つとして骨粗鬆症が注目されている。糖尿病では,骨の材料特性,構造特性のいずれもが損なわれ,骨強度が低下する。また,骨の産生するオステオカルシンは,インスリン分泌促進作用を有し,全身的に糖代謝を調節する可能性が示され,骨と糖代謝の間の密接な関係が明らかとなった。
(竹田 秀)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Topics
 インクレチンと骨・カルシウム代謝
 インクレチンは,摂食に伴って腸管内分泌細胞から分泌され,膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進する消化管ホルモンの総称である。代表的なインクレチンとしてglucose-dependent insulinotropic peptide(GIP)とglucagon-like peptide-1(GLP-1)が知られている。インクレチン関連薬であるdipeptidyl peptidase-4(DPP-4)阻害薬とGLP-1受容体作動薬は,2型糖尿病患者の高血糖や肥満を改善する効果を有する薬剤である。げっ歯類においてインクレチンによる骨量増加および骨質改善が報告されているが,インクレチン関連薬がヒトにおいても骨密度や骨折リスクを変化させるかどうかは今後の検討が必要である。
(木下祐加)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Topics
 卵胞刺激ホルモン(FSH)と肥満・骨粗鬆症
 閉経に際して,FSHの血中濃度上昇がその後の骨粗鬆症や内臓脂肪の蓄積に関連することが明らかとなってきている。近年,Zahidiらのグループは,FSH βサブユニットに対する抗体を用いてFSH受容体シグナルをブロックすることにより,閉経後の骨量減少を抑制できることを示した。さらに,同抗体を用いたFSH作用のブロックがベージュ脂肪組織における熱量産生増加をもたらし,体脂肪を減少させることも示している。これらの知見は閉経後骨粗鬆症や閉経に関連する脂質・エネルギー代謝異常症に対する新規治療法の開発に新たな展開をもたらすであろう。
(遠藤逸朗)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Topics
 肥満とビタミンD
 インスリン抵抗性および2型糖尿病と深く関連する肥満が,血清25(OH)D低下(=ビタミンD非充足)と関連することは確立している。そして,血清25(OH)D低下はインスリン抵抗性や2型糖尿病の発症と関連する。肥満においてビタミンD非充足がもたらされる主要な機序は,脂溶性であるビタミンDの増大した脂肪組織への把捉・貯蔵である。従って,運動や食事による減量・脂肪量の低下により,インスリン抵抗性の改善とともに血清25(OH)D濃度の上昇がもたらされる。この両者の関連が独立であるか否かは明らかでない。一方,生活指導介入を伴わない単なるビタミンD補充は,有意な体重減少や脂肪量低下をもたらさない。しかし,2型糖尿病患者を対象とした大量のビタミンD補充(2,000 IU/日以上)のランダム化比較試験の最近のメタ解析では,ビタミンD補充による血清25(OH)D値の上昇とインスリン抵抗性指標やHbA1cに代表される血糖コントロール指標の改善との関連が示されている。
(岡崎 亮)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Therapy
 糖尿病合併骨粗鬆症の治療
 骨粗鬆症治療の三本柱は,他の生活習慣病と同様に,栄養・運動・薬物療法である。糖尿病を合併した骨粗鬆症患者では,体重の減量による骨量減少リスク,エネルギー摂取制限に伴うカルシウム摂取量の減少などに留意する必要がある。糖尿病患者では,網膜症や神経障害などにより転倒リスクが高まるため,運動療法では,転倒予防に配慮した指導を行うことで,骨折リスクの低減をはかる。薬物療法に関しては,糖尿病関連骨粗鬆症に特化した指針はなく,原発性骨粗鬆症に準じた治療方法で構わない。薬物治療の有効性を高めるためにも,十分なカルシウムとビタミンDの摂取を心がけるべきである。
(鈴木敦詞)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Therapy
 糖尿病治療薬と骨折リスク
 糖尿病の骨折リスクには様々な因子が関与する。血糖コントロール不良自体も骨折リスクを高めるが,一方で一部の血糖降下薬も骨折リスク上昇に関与する。チアゾリジン系薬は主に骨密度低下により骨折リスクを高める。また,SGLT-2阻害薬についても骨密度を低下させて骨折リスクを高めることが報告されているが,クラスイフェクトとしての骨代謝への影響は未確立である。閉経後女性など,骨折リスクが特に高いと考えられる糖尿病患者に対しては,慎重な血糖降下薬の選択と骨粗鬆症に対する適切な介入が必要である。
(渡部玲子・井上大輔)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Therapy
 肥満外科治療による骨代謝の変化
 難治性肥満に対する治療として日本においても普及しつつある肥満外科治療は,著明な体重減少と合併症改善効果が期待できる一方で,骨代謝への悪影響が懸念される。術式により影響は異なるが,カルシウムおよびビタミンD不足,骨量減少,骨折リスクの増大を招く。これらの現象は複数の機序によると考えられており,荷重の減少,消化管吸収障害,二次性副甲状腺機能亢進,消化管ホルモンの変化などが挙げられる。
 本稿では,肥満外科治療に対する骨の反応について,潜在する機序を含め解説する。
(山口 崇・齋木厚人・龍野一郎)

▲肥満・やせと骨・カルシウム代謝:Therapy
 神経性やせ症と骨・カルシウム代謝
 骨密度の低下や骨粗鬆症は神経性やせ症の主要な合併症であり,後遺症になる。カルシウム摂取量は低下し,84%がビタミンD不足・欠乏している。骨代謝は体重依存性の骨形成の低下と骨吸収の亢進で,30%がビタミンK不足で骨質も劣化している。腰椎骨密度低下の最大の危険因子は低体重期間であり,有効な予防と治療は体重増加である。しかし,患者は容易に体重増加を受け入れないので,薬物療法が必要になる。0.5μg/日の活性型ビタミンD3や30~45mg/日のビタミンK2製剤(メナテトレノン)が超低体重患者の骨密度の低下を阻止し,エルデカルシトール0.5μg/日は初年度約5%の腰椎骨密度の増加作用を示す。ビスホスホネートや抗RANKL阻害剤デノスマブは若年者や妊娠を希望する患者には使用しない。
(鈴木〔堀田〕眞理)


血液フロンティア(Vol.28 No.7)
《特集・ゲノム編集技術の基礎と応用》

〔企画・自治医科大学医学部 生化学講座 病態生化学部門 教授 大森 司〕




▲ゲノム編集技術の基礎と応用
 序 ~医療分野におけるゲノム編集のポテンシャル~
 ゲノム編集のコンセプトは以前から知られていたが,CRISPR/Cas9の発見が重要なブレイクスルーになった。PubMedで“CRISPR”と検索すると2013年の発見から,わずか数年で2017年には年間3,000を超え,2018年は5月末の段階で1,600を超える論文が報告されている。CRISPR/Cas9はガイドRNA(gRNA)配列とCas9を発現させるのみで,ゲノムDNAを切断できる技術である。疾患の原因となる遺伝子を修復することができれば,究極の個別化医療が実現できる可能性がある。
 本特集では,臨床医にも知ってほしいゲノム編集の基礎と臨床応用の可能性について,その分野の専門家に概説していただいた。
(大森 司)

▲ゲノム編集技術の基礎と応用
 1.ゲノム編集ツールと遺伝子ノックイン技術
 ゲノム編集は,細胞の中で任意の塩基配列を切断する人工DNA制限酵素(ゲノム編集ツール)を利用して,正確に遺伝子を改変する技術である。原理的に,ゲノム編集ツールを導入できる全ての生物において適用可能なことから,基礎研究から応用研究までゲノム編集の利用範囲は想像以上に多岐にわたる。特に,疾患モデル細胞・動物の作製と疾患研究,それらを用いた創薬,遺伝子治療による臨床研究での期待が大きく,非常に速いスピードで研究が進んでいる。
 本稿では,ゲノム編集の基本原理と,応用研究で必要な遺伝子改変技術(遺伝子ノックイン技術)について紹介する。
(山本 卓)

▲ゲノム編集技術の基礎と応用
 2.臨床応用に向けたゲノム編集ツールの構造解析
 2012年,細菌の獲得免疫機構に働くCRISPRCasタンパク質が,ガイドRNA(crRNA,tracrRNA)を用いて真核細胞や個体のゲノムを配列特異的に切断し,細胞本来の修復機構を利用して,遺伝子のノックアウトやノックインを行うゲノム編集技術が開発された。しかしながら,現存のCRISPR-Casには,分子量,Offtarget,厳密なPAM 配列認識の問題があり,医療応用に用いることは事実上不可能である。我々は,5生物種由来の大小様々なCas9について,ガイドRNA,標的DNAの四者複合体の結晶構造を1.7~ 2.5Åの高分解能で発表し,ガイドRNA依存的なDNA切断機構やPAM配列の認識機構を明らかにした。また,立体構造に基づいて,PAM配列認識特異性を変えることに成功し,ゲノム編集ツールとしての適用範囲を拡張することに成功した。
(濡木 理)

▲ゲノム編集技術の基礎と応用
 3.胚のゲノム編集とヒトにおける倫理的課題
 遺伝子改変動物は,医学・生命科学研究において必須の実験動物であるが,その作製には安定した技術と比較的長い時間が必要であった。特にゲノム改変を行うためには,胚性幹細胞(ES細胞)を用いた相同遺伝子組換え,ES細胞を用いたキメラ動物の作製が必要であり,ES細胞が得られない動物では,基本的には作製が難しかった。しかし,CRISPR/Cas9システムに代表されるゲノム編集技術が開発されると,動物の遺伝子改変は受精卵(胚)での改変が可能となった。受精卵さえ得られれば,原理的にはヒトを含めた多くの動物で遺伝子改変が可能となり,状況は革命的に変化したと言える。実際に,ヒト受精胚を用いたゲノム編集の基礎研究が既に報告されている。
 いずれも倫理審査委員会の承認を得て,国の規制を遵守しながら,培養期間をごく短期間に限定するなどの倫理的な配慮をしながら行われたものであったが,その臨床応用について国際的な懸念や論争を呼んだ。2015年に開催された「International Summit on Human Gene Editing」や,2017年に日本学術会議で取りまとめられた「我が国における医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方」についての提言でも,「ゲノム編集を伴う生殖医療の臨床応用に関する暫定的禁止を含む厳格な規制」が提言されている。
 ヒト胚に対するゲノム編集の臨床応用を実施することは,多くの科学的・医学的問題点が残されていると同時に,倫理的および社会的な議論は十分なされておらず,現在はヒト胚に対するゲノム編集の臨床応用を実施できる状況にないと考えられる。
(高橋 智)

▲ゲノム編集技術の基礎と応用
 4.エピゲノム編集による疾患治療の可能性
 ゲノム編集とはゲノムの特定部位の配列を削除したり,あるいは特定部位に任意のゲノム配列を挿入・置換したりする遺伝子改変技術である。それに対し,エピゲノム編集は特定のゲノム領域のエピゲノムを操作する技術であり,DNAの塩基配列を変えることはなく,特定の遺伝子の発現を活性化したり抑制したり自在に操ることができる技術である。エピゲノムを自在に操作できるということは,基礎研究に与える影響はもとより,医療応用や産業応用において極めて大きな役割をもつと考えられる。
(森田純代・堀居拓郎・畑田出穂)

▲ゲノム編集技術の基礎と応用
 5.ゲノム編集とウイルスベクター
 先天性疾患に対する遺伝子治療は,異常遺伝子はそのままで,正常の遺伝子導入を行う遺伝子補充療法が主体である。一方,ゲノム編集は異常な遺伝子の修復を行うため,その効果が永続的に期待される。ゲノム編集による遺伝子改変動物の作製は,生殖細胞へのゲノム編集ツールの導入で可能であるが,ヒトの治療では,その安全性や倫理面から受精卵よりも体細胞でのゲノム編集が望ましい。ウイルスベクターを用いることで,個体でゲノム編集ツールの発現が可能であり,実際にヒト疾患の治療が開始されている。
(大森 司)

▲ゲノム編集技術の基礎と応用
 6.T細胞を用いた治療へのゲノム編集技術の応用
 生体内免疫機構への理解の深まりと遺伝子改変技術の革新により,がん免疫療法やHIV感染症治療が飛躍的な発展を遂げている。その基盤がT細胞であることから,技術進歩の著しいゲノム編集技術と組み合わせることも可能であり,その広がりは最早,とどまるところを知らないように思われる。本稿では,ゲノム編集技術を用いることにより同種間の免疫バリアーを乗り越えたユニバーサルT細胞およびウイルス感染抵抗性T細胞の作製による新規の治療法について,臨床面を中心に概説する。
(森田 薫・大嶺 謙)

▲ゲノム編集技術の基礎と応用
 7.造血幹細胞を標的としたゲノム編集技術の現状と展望
 造血幹細胞ゲノム編集治療は従来の遺伝子治療に対して安全性の面でメリットがあるが,その実現にはまだ数年以上かかると思われる。造血幹細胞のゲノム編集治療法として3つのタイプ,すなわち遺伝子破壊法,cDNA挿入法,相同組換え法が研究されている。造血幹細胞へのゲノム編集ツールの送達法として最近,Cas9のmRNAやタンパク質のエレクトロポレーションによる導入が主流になりつつある。ゲノム修復細胞が増殖優位性をもつ場合,治療を成功に導きやすい。造血幹細胞の大部分は静止期にあるので,外来遺伝子の相同組換えを起こしづらいことが大きな未解決課題である。
(花園 豊)

▲ゲノム編集技術の基礎と応用
 8.ゲノム編集の非ウイルス性送達法および臨床応用戦略
 近年のゲノム編集技術の発展に伴い,遺伝子治療臨床応用への動きが益々活発化している。ゲノム編集治療をヒトで成功させるためには,目的組織への効率的かつ安全な送達技術が鍵となる。非ウイルス性送達法を用いたin vivo ゲノム編集技術は,一般的によく用いられるウイルスベクター法と比べて宿主に対する免疫原性が低く,またゲノム編集システムの発現期間が短いため,ゲノムDNA上のオフターゲット変異を抑制できるという利点がある。本稿では,最近のマウスモデルを対象とした非ウイルス性送達法によるゲノム編集技術の応用例を取り上げ,現在の技術の可能性と問題点を俯瞰的に紹介する。
(奥嵜雄也・堀田秋津)







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